毒母は連鎖する

現在、社会人、大学生、高校生の母親である谷中さんだが、その子育ては決して順風満帆とは言えないものだった。

「絶対に自分が親にされて嫌だったことはせず、してほしかったことをしてあげようと心に決めて育児をしましたが、なかなかうまくいきませんでした。3人の子どもたちは全員、アレルギーやチック、過敏性腸症候群、起立性調節障害などを発症し、不登校になりました。母が毒親だったと気付き、距離を置くまでは、母を優先して子どもたちを後回しにしたり、母の言動に私自身が不安定になったり不機嫌になったりすることも多く、結果、子どもたちを犠牲にしてしまったせいかもしれません」

旦木瑞穂『毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち』(光文社新書)
旦木瑞穂『毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち』(光文社新書)

筆者はこの12月、『毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち』(光文社新書)を上梓したが、毒親に育てられた人は、その事実を受け止め、これ以上毒を受けないように毒親と距離を置き、そのうえで毒を受けた自分と向き合い、過去の自分を肯定していく作業を行わないと、自分も毒親になってしまうケースが少なくない。

おそらく谷中さんも、母親を毒母だとしっかり認識するのが遅れてしまったため、谷中さん自身の苦しみが長引くだけでなく、子どもたちにも“毒”を与えてしまっていた。

「意識的には、毒親と同じ言動は絶対にしていない自信があります。でも、私自身の自己肯定感がとてつもなく低いせいか、子どもたちの言動で、自分がバカにされた、ないがしろにされたと感じると、卑屈になってしまいます。一方で、疲れていても不本意でも、とにかく自分より子どもたちを優先し、全ての要求に早急に応えようとしてしまうため、自分自身だけでなく、子どもたちにプレッシャーを与えてしまったのかもしれません」

筆者はこれまで50人近くの毒親に育てられた人に取材をしてきたが、自分を犠牲にしてばかりで、自分を大事にできない毒親育ちは少なくない。

その理由はもちろん、幼い頃から毒親を最優先にし、自分を犠牲にしてきたからだ。谷中さんの場合、そのツケは長女との関係に暗い影を落とした。

「娘とは、普段は恋愛相談に乗ったり、一緒にショッピングに行ったりする仲です。かといって依存し合うことのないよう、求められたときだけ応じるなど、距離感には気をつけています。私と同じ真ん中っ子で女の子なので、他の子以上にかわいがると決めていました。私は母と違って、『娘とこんなに仲良いんだ』という、母への復讐心もあったかもしれません。

友人関係のようになった娘は、本人に悪気はないようですが、私に対して言葉がキツく、批判や否定ばかりしてきます。私が家事などをどんなに頑張っても、できていないことを見つけて文句を言ったり、やろうとする前に手や口を出したり、常に私を見張っているような気がします。そのうえ、娘からバカにされていると感じることや、何かと都合のいいように利用されていると感じることさえあります」

谷中さんと娘との関係が、谷中さんと母親との関係そのままに踏襲されてしまっている。

毒親家庭やモラハラ家庭で育った人が、不幸にも、自分でも毒親家庭やモラハラ家庭を築いてしまうことはしばしばある。

その理由は、その人自身が毒のある人やモラハラ気質の人を引き寄せてしまうほかに、その人自身が側にいる人を毒のある人やモラハラをする人に変えてしまうケースもあるようだ。谷中さんの場合も、谷中さん自身が長女を無意識に自分の母親のように育ててしまった可能性がある。

長女からバカにされると、谷中さんは思わず無言になったり、明らかに不機嫌になったりする。ひどく責められると、頭が真っ白になってパニックに陥り、「一生懸命頑張ってるから許して〜!」「申し訳ありません! 申し訳ありません!」などと泣き叫んでしまうこともあるという。

「娘は、私の生い立ちを何となく察しているようで、理解は示してくれますが、申し訳なさでいっぱいです。こんな母親でも好いてくれているのもわかっているのですが、なかなか割り切れず、反応せずにはいられません。そして私と違い、母親に大切にされている娘への複雑な思いもあります」

携帯メールを拡大鏡で読もうとしているシニア女性
写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです

子どもを持ったとき、「自分は親のようにはならない」と決意する毒親育ちは多い。そして育児の過程で、「わがままが許される我が子が羨ましい」「暴力なしで育ててもらえる我が子が羨ましい」と感じる人も少なくない。もしかしたら、この“羨ましい”という気持ちに抗い続けられる人はわが子を虐待しないが、負けてしまう人は自らもわが子を虐待してしまうのかもしれない。

「実家の隣に家を建ててしまい、本当に後悔しています。今はまだ子どもたちがいるため難しいですが、いずれは引っ越したいです。念願の持ち家に愛着のある夫に反対されたら、夫と別居し私だけ引っ越すことも検討しています。でも私がいなくなれば、夫が母の買い物の足にされると思うと、躊躇してしまいます……」

毒親育ちにとって一番の薬は、物理的にも精神的にも毒親から離れることだ。子どもたちにも毒の影響を与えてしまっている可能性があるため、谷中さんは一度腹を割って、自分の生い立ちや両親との関係について子どもたちに話す必要があるだろう。連鎖を止めることはできるのだから。

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