谷中家のタブー

筆者は家庭にタブーが生まれるとき、「短絡的思考」「断絶・孤立」「羞恥心」の3つが揃うと考えている。

「短絡的思考」は、今回ケースの両親それぞれに見られる。嫉妬心が強く、日常的に暴力をふるう父親との間に3人も子どもをもうけた母親は、子どもにまで暴力をふるわれても、それを止めようともしない。そして唯一母親を庇おうとする谷中さんを、搾取子として邪険に扱い続けた。母親はその気になれば父親と別れることもできただろうに、最後まで行動に移すことはなかった。

一方父親も、長男ばかりをかわいがり、娘たちには暴言を吐きまくる母親をたしなめたことは一度もなく、むしろ一緒になって暴言を吐いていた。谷中さんの両親は、「子どもには衣食住を与え、勉強さえさせておけば親の務めを果たせている」「子どもは親の所有物だ」と思っているように感じる。

先にも触れた通り、母親の実の母親(谷中さんの実の祖母)は、理由はわからないが、当時1歳の母親を自分の姉(母親にとって伯母)に養女として出している。養母はとても気難しく気性が激しい人で、養父も短気で気性が荒い人だった。

「母は愛されて育ったという感じではなく、祖父母と母が仲が良いとは思えませんでした。祖父や父が亡くなってからも、母と祖母は仕方なく同居を続けていたようですが、家事の分担やお金のことでいつもお互いに悪口を言い合っていました……」

と谷中さんは話すが、いい大人同士が、仕方なく同居を続ける必要はない。それなのに同居を続けたのは、母親と祖母が共依存関係に陥っていたからだろう。

父親の育った家庭も穏やかではなかったようだ。父方の祖父は、昔気質で気性が荒く暴力的。父方の祖母は影が薄かった。

「父にはきょうだいが5人いて、みんな気性が荒く、父によく似た雰囲気でした。姉の1人はヤクザの妻になったそうです。でもその中でただ1人優秀な弟がいて、現在は大学教授をしています。その弟が父の自慢でもあり、コンプレックスにもなっていたように思います」

おそらく父親も母親も、それぞれが育った家庭の“父親像”“母親像”を無意識に踏襲していたのだろう。

子供の頭をなでる大人の影
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父親が母親や子どもたちに暴力を振るえば、当然近隣には大きな物音や泣き声が聞こえていたはずだ。母親が谷中さんを罵倒する声も聞こえていたかもしれない。それでも、谷中さんの家に苦情や警察が来たことはなかった。

父親や兄から借金を隠して会社を継がされた父親。同僚などの悪口やうわさ話ばかりで、自分は美人だとうぬぼれ、娘や他人の外見をバカにしている母親は、親族や近隣、社会から孤立していたのだ。

そして現在、毒母を断捨離することを決断し、距離を置き始めて2年の月日が流れようとしている谷中さんだが、その決断のきっかけのひとつには、母親に対する羞恥心があったはずだ。自分も結婚して妻になり、子どもを持ち、母親と同じ立場になって、「やはりこの人はおかしい」と感じたからこそ、心と身体が拒否してしまうようになったに違いない。