※本稿は、中川瑛『孤独になることば、人と生きることば』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
「優秀な人と仕事がしたい」という口癖の背景
「仕事熱心で人を見下しているタイプの人」が職場で孤独になる例を見てみましょう。
ある女性は、とても仕事熱心で、口癖は「優秀な人と仕事がしたい」でした。実際、彼女は他の人と比べてパフォーマンスが高く、これまでに成果も出してきました。だからこそ、リーダーとなってチームのマネジメントも担当するように。
これまでは個人の成績だけ見られていたところから、チームの全体としての評価も査定に入るようになります。すると、これまでは横目で見ては「効率が悪いのになんでこんなことやってるんだろ、馬鹿みたい」と思っていた人たちに直接指導を開始するようになりました。
「どうしてこういうやり方してるの? もっと効率よいやり方あるよ。ていうか、改善できるところはないか考えたことある? こんなんじゃ今期も成績達成できないよね」と追い詰め、チームのメンバーが相談しにくると「こんな簡単なこともいちいち聞かなきゃわかんないんだったら、普段の仕事どうやってんの?」と大袈裟にため息をついてフィードバックし、かといって自分に相談せずに進めている案件を見ると「ちょっと待って、これ聞いてないんだけど。勝手に進めないでくれる? 自分で決められるほど優秀なの?」といった振る舞いをしていました。
彼女は「チーム全体として成果を出したいのに、なぜこんなに頭が悪くて努力不足な人ばかりなんだろう。私は運が悪い」といつもイライラしていました。そんなとき、思わず口に出てしまうのが「優秀な人と仕事がしたい」なのです。
「どんな意見でも大歓迎」と言うものの…
あまりにも成果が低いので、彼女はマネジメントのセミナーに参加して新しい知識を得ます。それは「チームのメンバーが意見を言えるようにして、それを踏まえて意思決定するのがリーダーの役割」というものでした。彼女は勉強熱心なので、早速それを実践しようとします。
「みんな、どんどん意見を言って。どんな意見でも大歓迎だから」と。しかし、やる気がないように見えるメンバーたちは、全く意見を出しません。会議の中で「みんなはどう思う?」とぐるっと顔を見渡しても、みんな沈んだ面持ちで時間が過ぎ去るのを待つようにしています。そうするとまた「ああ優秀な人と仕事がしたい」と思わず口走ってしまいます。意見を言う、そんな簡単なこともできないのかと思うと、頭が痛くなってきます。