「(父親が死んで)心が解放された」「夢も希望もありませんし、結婚して家庭を持つこともないので、仕事をするモチベーションは湧いてきません」。30年以上、無職無収入で親の遺産で暮らしている60歳の独身男性が自らの不安払しょくのために始めた人生最初で最後の“賭け”とは――。

約40年前の就活に失敗し、人生の歯車が狂った

埼玉県在住の内山和夫さん(仮名・60歳)は両親を亡くしており、現在は一人暮らしをしています。

内山さんの収支および財産は次の通りです。

■収入
なし(無職無収入)

■支出
基本生活費 10万円
住まいの費用 4000円(自宅の固定資産税を月額換算)

■財産
現金預金 3500万円(すべて親からの相続)
自宅土地 1000万円(同上)

父親は13年前に亡くなり、母親は2年前に亡くなっています。内山さんには弟(58)が一人いますが、弟は結婚して家庭を持っており、内山さんとは別居しています。弟は、ひきこもり続けてきた内山さんにあまり良い印象を持っていなかったようで、母親の相続の際、内山さんに次のようなことを告げました。

「俺は母親の財産を一切相続しない。その代わり今後一切、あんたに関わることもしない。一人で何とか生きていってくれ」

内山さんは無職無収入のため、相続した貯蓄を取り崩しながら生活をしていくしかありません。このまま自宅で人生の最後を迎えるつもりでいましたが、3000万円台の貯蓄がみるみる減っていくにつれ、お金の不安がどんどんと膨らんでいってしまったそうです。

暗闇の中の毛布
写真=iStock.com/Nebasin
※写真はイメージです

唯一の身内である弟には相談できない。親戚にも頼れそうな人はいない。困り果てた内山さんは、意を決して筆者に相談することにしました。

筆者は、まず内山さんから今までの経緯を伺ってみることにしました。内山さんは大学生になるまで特に何の問題もなく過ごしてきたそうです。

大学在学中、同級生が就職活動で忙しく動き回るなか、内山さんはやりたいことが見つからず、就職活動に力が入らなかったとのこと。そのため、大学を卒業しても内山さんは就職することはありませんでした。

なお、内山さんは大学生の頃、国民年金の保険料は学生の納付猶予の手続きをせず、支払いもしていませんでした。就職したら過去にさかのぼって支払うつもりのようでしたが、就職をしなかったためそのまま未納になってしまいました。

大学卒業後、実家に住みながらアルバイトをしていた時期もありましたが、内山さん本人は国民年金の保険料を支払うことはしなかったそうです。

未納状態にあることを心配した母親は、父親に「代わりに国民年金の保険料を支払ってくれないか」とお願いをしたこともありました。

すると父親は「なぜまじめに働きもしないコイツの保険料を支払わなければならないんだ。後で困るのは本人なんだから、そんなの放っておけ!」と怒りを露わにしたそうです。

今でこそ国民年金の保険料が未納状態にあると催告状や督促状が届くようになっていますが、当時は未納状態のまま放っておかれてしまうような時代でした。そのため、内山さんの国民年金保険料は父親が支払うこともなく、未納のままになってしまいました。