新築・中古マンションなど不動産価格が上昇している。だが、東京近郊であっても上昇するどころか、近隣よりも下落する地域もある。FPの村井英一さんが相談を受けた70代夫婦は庭付き一戸建てを売却して、中古マンションに住み替えようとしたが、実現困難であることがわかった。なぜなのか。ネックは、立地と無職状態の40歳の長男の存在だった――。
電気のついていない和室に引き戸から差し込む光
写真=iStock.com/Wako Megumi
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すべての不動産価格が上昇しているわけではない

このところ、マンションの販売価格の上昇が続いています。東京23区では、新築マンションの販売価格の平均が1億円を超えたことが報じられました。長引く低金利の影響もあって多額の住宅ローンを組む人が増えたのは、物件価値が購入後も下がらず、将来的に高く売却することも可能だと考える人が少なくないからでしょう。

しかし、すべての不動産価格が上昇しているわけではありません。郊外の住宅地の中には住民の高齢化が進み、“限界集落”と言われる分譲地もあります。

今回相談に来た70代の夫婦が住んでいるのも、かつての「ニュータウン」です。すでにリタイアして年金暮らしですが、長男(40)が無職の状態が長引き、今後の生活を思案されています。

相談者の家族構成
相談者・父親:三浦 剛さん(仮名・71歳・無職) 
母親:ひろ子さん(仮名・70歳・無職) 
長男(40歳、無職)と同居

資産
・預貯金:2000万円
・自宅(戸建て持ち家)

収入・支出
・年金収入:父親220万円 母親130万円 計350万円
・生活費:年額280万円

夫婦はいっしょに私の事務所にやってきました。

「自宅を売却して、もう少し利便性が良いマンションに住み替えたいのですが、できますでしょうか?」

「住み替えをされたい理由は何でしょうか?」私は尋ねます。

「今の場所は交通が不便で、都心まで通勤するとなると大変です。息子が働かなくなってしまったのも、それが一因ではないかと思うのです。利便性の良い場所に移れば、仕事も続くのではないかと……」

話を聞くと、長男は高校卒業後に就職し、いったんは自宅を出たそうです。しかし、慣れない仕事に、一人暮らしの負担も重なり、ほどなく退職して自宅に戻ったそうです。その後は自宅から通勤できる仕事を探し、再就職をしました。しかし、今度は通勤時間が長く、早朝に自宅を出ては夜遅くに帰ってくる生活が続きました。しばらくは頑張っていましたが、やがて体調を崩して退職することになりました。

その後もいくつかの仕事に就きましたが、やはり通勤が負担となり、長くは続きませんでした。そのうちに転職も難しくなり、無職の状態が続くようになってしまいました。けっして部屋にひきこもっているわけではなく、買い物などでは車を運転してくれます。両親も息子さんを頼ってしまう面があり、利便性が良い場所への転居を考えたようです。

「かつてはニュータウンと言われて賑やかだったのですが、今は高齢化が進んでいます。息子には仕事に就いてもらいたいのですが、今のところは車がないと不便で、どうしても息子に頼ってしまうのです」と母親は理由を教えてくれました。