70代後半の両親の悩みの種は、誰ともコミュニケーションが取れずに孤独な人生を送っている53歳長男だ。20代で少しアルバイトをした以外は働けず、40代以降は家の外へ出るのも難しい。幸い両親には豊富な資産と十分な年金と駅近の持ち家がある。FPの畠中雅子さんが将来の家計シミュレーションをした席で、親の蓄えと気持ちを知ったことで長男は前向きに生きられるように。「僕のためにたくさん貯蓄をしてくれていて、本当にありがとう」と突然発言し、両親は涙を流したのだが――。
暗い部屋のドアを開ける男のシルエット
写真=iStock.com/Robin Beckham
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誰ともコミュニケーションが取れずに孤独な人生の50歳長男

東海地方に住む川崎たかしさん(仮名・53歳)は、子どもの頃から人とコミュニケーションをとるのが苦手だった。人との会話のタイミングがうまくつかめず、相手が引いてしまっても自分の話を一方的にしてしまう特性を持っている。中学生までは、休み時間をひとりで過ごす機会が多かったとしても、何とか学校に通うことはできた。

だが、高校生になると、友人たちに自分の悪口を言われているのではないかという妄想にとりつかれるようになり、1年生のGW明けから不登校気味になった。

結果的に、高校1年生の夏休み明けに高校を中退。その1年後、通信制高校に転学し、5年かかって、高校を卒業した。通信制の高校を卒業するのもやっとだったために、大学への進学はあきらめた。

20代の頃は、アルバイトを何回か経験したが、覚えが悪いことを指摘されるばかり。長いところでも2カ月、短いところだと、1週間くらいでクビになったり、自分で辞めたりしてきた。30代を迎える頃からは、人と話すのがコワくなり、外出もできる限り避けてきた。外出できるのは、深夜のコンビニだけ。それ以外の時間は、自宅にこもって、パソコンに向かう日々を過ごした。

さらに40代に入ると、深夜のコンビニにも行けなくなり、自宅からも出られなくなった。30代から40代にかけては、たかしさんにとって暗黒時代だったそうで、何度か自殺未遂を起こしている。自殺未遂の経緯などについては、どうしてもたずねることができなかった。

自殺未遂をしたこともあり、母親はたかしさんに対して腫れ物を触るように接してきた。たかしさんの希望は、できる限り叶えてきたそうだ。

いっぽう、父親から直接文句は言われないものの「働けないだけではなく、家からも出られない息子を不甲斐なく思っているのではないか」と感じてしまうため、父親とはできる限り会話を避けて暮らしてきたそうだ。