「僕のために2人とも貯蓄をしてくれていて、本当にありがとう」

「おとうさん、おかあさん、今までいろいろと迷惑をかけてきたのに、僕のために2人ともたくさん貯蓄をしてくれていて、本当にありがとう」

その言葉を聞いた父親も母親も驚き、相談の場で嬉しい涙を流す結果となった。もちろん、聞いていた私も本当に驚いた。面談前に受け取ったメールには、「自分は生きていても仕方がない。周りに迷惑をかけるだけだから、死んだほうがいいのではないか」というような言葉もつづられていたが、面談が進むにつれ、たかしさんからネガティブな言葉が消え、最後は親に感謝の言葉まで伝えられるようになっていったからだ。

第三者から見れば、働けない息子を抱える一家である実態は変わっていないだろう。だが、親子の心情は面談を通して間違いなく変化した。人とコミュニケーションを取ることの難しさに悩み苦しみ、自分が存在すること自体に罪悪感を抱いていたたかしさんにとって、「今のまま、生きていてもいいんだ」ということ、そして「働けない自分の生活について、親はきちんと考えてくれていたんだ」という事実を理解できたことは、大きな変化につながったようである。

面談が終わった日の夜、たかしさんからメールが届いた。

「今日は長時間、話を聞いてくださってありがとうございました。今は頭の中がいっぱいになっているので、うまく説明ができないのですが、父親が自分の将来について真剣に考えてくれていたことがわかって、今まで父親を避けるように暮らしてきたことを申し訳なく感じました。これからは両親に感謝しながら、できるだけ心配をかけずにすむように、もう少し会話を増やそうと考えています。親子で話し合う機会を増やし、自分がすべきことがわからなくなったり、新たな課題が出てきたりしたら、また親子で相談に行ってもいいですか」

最初に届いたメールの文面とは、まったく異なる前向きな内容だった。

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