産業用の貫流蒸気ボイラーで国内シェア6割(※)を占める三浦工業は、2024年にアメリカやドイツの同業大手を買収し注目を集めた。貿易コンプライアンスを徹底するために同社が導入を決めたのがトムソン・ロイターのONESOURCE Global Trade(国際貿易管理システム)だ。背景にあるのは、グローバルビジネス環境の激変。三浦工業株式会社 取締役 専務執行役員の廣井政幸氏とトムソン・ロイター代表取締役社長の三浦健人氏が「貿易コンプライアンスの重要性」について語り合った。

※三浦工業調べ。

グローバルビジネスを成長エンジンとして注力

――三浦工業は昨年、米ボイラー大手のクリーバーブルックス社を約7億7400万ドル(当時の為替で約1,161億円)で買収しました。どのような経営理念のもと、会社をここまで成長させてきたのでしょうか。

【廣井政幸氏(以下、廣井)】三浦工業は1959年に設立、小型の貫流蒸気ボイラーの製造を始めました。現在では、主力であるボイラー以外にも水処理機器、食品機器、医療用機器、舶用機器等の製品開発・製造・販売に取り組んでおります。

ボイラーは重要な熱源であるため、スピーディなメンテナンスが不可欠です。当社は、お客様の機器を、フィールドエンジニアの蓄積したノウハウで適時点検、部品の先行交換等を行い、故障する前に未然に防ぐまさに「ビフォアメンテナンス」を実現する独自のメンテナンス保守契約でビジネスモデルを構築しています。

その背景には、当社の企業理念「熱・水・環境の分野で、環境に優しい社会、きれいで快適な生活の創造に貢献します」があります。現在、お客様からの要望はカーボンニュートラルへの取り組みが不可欠であり、当社もご要望に応えるための課題を抽出し推進しております。

これからは、ボイラーを基軸としたビジネス展開からお客様の生産現場に一歩踏み込み、多様な機器の効率を高める工場全体の省エネ提案で環境問題の解決につなげていきたいと考えています。

廣井政幸(ひろい・まさゆき) 三浦工業株式会社 取締役 専務執行役員
廣井政幸(ひろい・まさゆき)
三浦工業株式会社
取締役 専務執行役員

【三浦健人氏(以下、三浦)】今では多くの日本企業がグローバル展開を推し進めていますが、とりわけ三浦工業様は海外進出を始めたのが1982年と非常に早いタイミングでした。先見の明があったともいえますが、グローバル展開についてはどのような考えのもと、進めてこられたのでしょうか。

【廣井】はじめは韓国、それからカナダ、台湾と進出していきました。当初は現地の日系企業にボイラーのシステムを導入してもらう形で販売していったのですが、そこから徐々に現地のローカル企業へと販路を拡大し、今では売上収益の海外比率が約50%(※)のところまできました。

※2025年3月期第3四半期時点。

グローバル展開の根底にあるのは、少子化や人口減による国内市場の収縮により、いずれボイラー事業だけでは頭打ちになるという危機感からです。経営計画は常に10年先を見据えながら策定しており、事業領域を広げること、顧客との接点を増やすことを常に意識してきました。昨年はアメリカのクリーバーブルックス社に加えドイツのサータス社も買収するなど、海外企業のM&Aも積極的に進め、今では海外50以上の国と地域でボイラーを販売しています。海外シェアは今後、より高めていきたいと考えております。

三浦健人(みうら・けんと) トムソン・ロイター株式会社 代表取締役社長
三浦健人(みうら・けんと)
トムソン・ロイター株式会社
代表取締役社長

貿易関連の法規制の改正は「年間1億件以上」に

――アメリカではトランプ氏が大統領に返り咲き、過激な関税措置を講じるなど世界情勢は大きく揺れ動いています。

【三浦】トランプ政権が誕生し、米中の経済的な分離、地政学リスクの影響もあって、グローバルのビジネス環境は日々目まぐるしい変化を続けています。この変化に伴い、新たな法規制が各地で生まれており、世界における貿易関連の法規制の改正は年間1億件以上に上ります。こうした法律に対応する「貿易コンプライアンス」は、海外で事業を展開する日本企業にとって、大きな課題となっているのです。

このような状況に自社スタッフだけでリアルタイムで対応することは、非常に困難です。もしも現地の法律に違反するようなことがあれば、「知らなかった」では済まされません。正確に、柔軟に、効率的に対応していくことが求められているわけですが、まさに「言うは易く行うは難し」。専門家のサポートや、我々のような国際貿易に関するソリューションを提供する会社が求められる場面が増えていくと考えております。

まして三浦工業様のように海外で大きく展開しようとしている会社であれば、サプライチェーンのコンプライアンスにまで目を光らせる必要が出てきます。サプライチェーンまでチェックするとなると、テクノロジーの力を活用していくことがマストではないかと思います。

一連のコンプライアンスチェックを一つのプラットフォームで

――トムソン・ロイターではONESOURCE Global Trade(国際貿易管理システム)というソリューションを提供しています。三浦工業も導入を決定しましたが、これはどのようなシステムなのでしょうか。

【三浦】ONESOURCE Global Tradeは貿易管理のインフラ基盤構築を支援するソリューションです。国際貿易に関わる規制や法制の最新情報を提供し、貿易コンプライアンスをしっかり担保しながら、貿易業務の効率性向上、コスト削減などを可能にするものです。

特長としては大きく2つあり、「集約化」と「自動化」です。集約化とは、受注や出荷情報のチェック、取引先情報のスクリーニングといった貿易コンプライアンスにおいて重要な情報をシステムに集約し、全体把握を可能にするもの。ONESOURCE Global Tradeでは、この全体把握を本社だけでなく、海外拠点も含めたグループ全体で実現できるため、グローバルガバナンスの強化にも寄与します。三浦工業様のように海外M&Aを進める会社にとってはメリットが大きいと考えています。

また、ONESOURCE Global Tradeは引き合い、受注、出荷のタイミングに自動で起動され、常に懸念顧客チェックをしている状態を実現します。これが「自動化」です。基幹システムとデータを連動させ、一連のコンプライアンスチェックを一つのプラットフォームで完了できることが大きな強みです。

導入の決め手は「220以上の国や地域の情報」を網羅していること

【廣井】当社もこれまで既存の輸出管理システムを運用してきたのですが、ボイラーや付帯品、周辺機器を輸出、販売するにあたって、懸念顧客のスクリーニングはスタッフが手作業で対応、管理していました。単純なヒューマンエラーもあれば、作業が属人化してしまう懸念もあり、常々、担当部署から改善要望が出される状況でした。数年前から自動化や効率化を実現する新たなシステムの導入を目指し、様々な企業のソリューションを比較検討する中で、昨年末にまずは輸出管理の部分から、ONESOURCE Global Tradeを導入することを決めました。

最大の決め手は、220以上の国や地域の輸出入制度情報を網羅し、約200人の専門スタッフが365日体制で規制や制度変更を常にモニタリングしていることです。これは当社が今後、さらなるグローバル化を推し進める上で大きなポイントとなりました。

先に挙げた懸念顧客のスクリーニングが自動で行えること、システム自体のメンテナンス性も高いことなども含め、我々の海外展開を支えてくれるシステムだと確信しています。

【三浦】まさに我々のシステムの強みがどこにあるかを理解してくださっていて嬉しいです。昨今、トランプ大統領による追加課税を課す大統領令発令など、貿易を取り巻く環境は一夜で変わるリスクを常にはらんでいます。こうした事態に各自で把握、対応することには多大な労力と工数を要します。トムソン・ロイターほどの規模感でモニタリングし、鮮度をもった情報を毎日アップデートしている会社は他にないと自負しております。

廣井氏と三浦氏

企業ごとにカスタマイズして導入・運用をサポート

【廣井】まずはこの春から本社でシステムの導入を進め、その後国内グループ会社と海外グループ会社への展開を進めていく予定です。大きなシステムの刷新は、どうしても最初は慣れない面があると思い、社内でもプロジェクトを立てて体制を整えました。トムソン・ロイター様からもしっかりサポートをいただきながらこの1年で導入、運用を進めて、このシステムを起点に国内、海外のガバナンス強化を図っていきたいと考えております。

【三浦】一言でグローバル展開、貿易管理といいましても、お客様によってビジネスの状況やご要望、進め方は千差万別です。三浦工業様がこれまで続けてきた管理の在り方や、これからなそうとされていることをしっかりコミュニケーションを取って理解し、三浦工業様に合った形にカスタマイズしたシステムを一緒に作り上げていきたいと考えています。

日本企業は、世界有数の技術力を持ち、グローバル市場において大きな影響力を持っています。しかしながら、ここ数年で貿易コンプライアンスを巡る環境は大きく変わりました。数年前までは国内法令を遵守していれば大きな問題が起こることはありませんでしたが、今はビジネス上のリスクが段違いに跳ね上がっています。

グローバルスタンダードである「グループ全体のコンプライアンス統合運用」に後れをとるようなことがあれば、海外事業の成功など望むべくもありません。我々は、保有するグローバルの知見、経験、テクノロジーソリューションによって、世界で活躍する日本企業の下支えをする存在でありたいと考えております。