※本稿は、片田珠美『職場を腐らせる人たち』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。
過大なノルマをこなすために「自爆」営業
保険会社の40代の男性上司は、部下を別室に呼びつけて「君の将来を思って言うんだが……」という枕詞を吐いた後、過大なノルマを押しつける。この上司は、現状を見れば達成できるとは到底思えない数字を示し、「これだけの契約を取ってくれば、上からの君の評価はうなぎ登りで、賞与にも反映されるし、今後も安泰。昇進できるし、給料も上がる。本当に君のためになるんだぞ」と熱っぽく言うそうだ。
この上司が示すノルマは、まっとうな営業活動だけでは達成が無理そうな数字なので、部下の多くは家族や親戚、友人や知人などに保険への加入を懇願するらしい。とはいえ、どうしても限界がある。周囲の人に一通り保険に入ってもらったら、それ以上は頼みにくい。それでも、ノルマがあるからと、保険への加入をさらに懇願していたら、関係悪化につながりかねない。実際、周囲との関係が気まずくなったり、疎遠になったりした部下もいるようだ。
そういう事態を避けるためか、なかには保険料を肩代わりしている部下もいるらしく、経済的な自己犠牲を伴う営業、いわゆる「自爆」営業によって取れた契約がかなりの割合を占めているのが実態だという。
毎日、進捗状況をメールで報告させられる
20代の女性社員もその一人で、家族や友人などに頼み込んで保険に入ってもらったものの、後が続かず、結局「自爆」営業に手を染めなければならなくなった。そのせいで、毎月かなりの額の保険料を自分で負担しなければならず、保険料を払うために働いているような感じさえして、この先やっていけるのかと不安を覚えずにはいられなかった。
そこまでやっても、ノルマ未達の状態が何カ月か続いた後、上司から「毎日午後5時に翌日やることをメールで報告し、それがどこまでできたかという進捗状況を当日退社する前にメールで報告しろ」と命じられた。
この女性は、自分が一挙手一投足を監視されているみたいに感じた。しかも、進捗状況を見た上司から「あれもできてない。これもできてない」と責めるメールが毎日のように送りつけられてきて、出勤して上司と顔を合わせるたびに激しい動悸がするようになった。