上司が手渡した「候補リスト」の内容
それだけではない。あるとき、毎週月曜日の朝出勤したら、前の週の実績報告書を上司のデスクまで持ってくるよう指示された。最初の実績報告書を提出したところ、別室に呼び出され、「契約をなかなか取れない理由について話し合おう」と言われた。もっとも、実際には話し合いとはほど遠く、「なんでできないんだ」「毎日何をしているんだ」と1時間以上膝詰めで詰問された。
あげくの果てに、上司は「これまで契約が取れた顧客に別の保険への加入を勧めてはどうか。それくらいしか君がノルマを達成できる方法はないだろう。君のためにその候補リストを作っておいたから」と言って、保険の積み増しを依頼する顧客のリストを手渡した。
それを見て、この女性は愕然としたという。これ以上保険への加入を懇願しても、断られそうな相手ばかりだったからだ。それでも、実績をあげるために頼み込んで形だけでも保険に入ってもらうことができないわけではなかったが、この手段は必然的に彼女の経済的な自己犠牲を伴う。
頭は真っ白、吐き気でトイレに駆け込んだ
月々の保険料の負担がさらに増えるのかと思うと、暗澹たる気持ちになり、頭が痛くなった。そのせいで思考力も集中力も低下し、まともに営業活動をすることができず、実績報告書に記入できるような成果を一切あげられなかった。
翌週の月曜日の朝、この女性は一応出勤したものの、頭が真っ白になり、吐き気を覚えてトイレに駆け込んだ。とても勤務できる状態ではなかったので、実績報告書を提出できないまま早退した。
吐き気の原因を調べるために内科と産婦人科で検査を受けたものの、異常はとくに認められず、妊娠もしていなかった。そのため、紹介されて私の外来を受診し、「適応障害」の診断書を提出して休職することになった。