最近の理系の人は油断がならない。文章がやたらうまいのである。養老孟司先生も池田清彦さんも茂木健一郎さんも春日武彦さんも、みな達意の日本語の書き手であり、恐るべき読書家であり、なまじいな文学研究者など足元にも及ばない。加えて「科学研究」という現場を持っていて、それを推論のたしかさを検証するときのものさしにしている。これでは文系の学者は歯が立たない。

福岡先生もそんな「達意の理系文章家」の1人である。とにかく「わくわく感」のある文章を書く。本書は開巻いきなりこんな文章から始まる。〈司会者が次の演者の発表をアナウンスすると会場は水を打ったように静かになった。私は発表者がどこから現れるのかと目を泳がせていた。名前は知っているが、どんな人物なのかはわからない彼をいち早くとらえようと。〉