かつて映画や舞台で活躍した女優、小山明子は私の母親である。多くの一般家庭と同様、わが家でも親の仕事の話などはあまり出なかったのだが、ある日、母が教えてくれたこんな言い回しがある。

「一に口跡(こうせき)、二に容姿、三、四がなくて五に演技」。役者に求められる資質の順番だそうだ。口跡とは声の出し方、使い方のこと。ルックスや演技よりも、美しいよく通る声で話すことが第一ということらしい。この話が子どもの私の記憶に残ったのは、やはり意外だったからだろう。容姿より声という順序がどうにも腑に落ちなかったのだ。