中国軍機が自衛隊機へレーダー照射したことで、両国間の関係が悪化している。ICU教授のスティーブン・R・ナギさんは「GDP成長率は4.7%に減速し、不動産部門は事実上崩壊し、若年失業率が21.3%超となるなど、中国は内なる脆弱性を抱えて焦っている」という――。
習近平国家主席
習近平国家主席(2016年3月25日)(写真=kremlin.ru/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

国内にいる「中国共産党の代理人・弁護人」とは

11月以降、高市早苗首相率いる日本に対して、中国による計算しつくされた戦略が展開されている。

SNS上の偽情報キャンペーン、海軍示威、経済圧力、沖縄主権への異議、文化人招待の取り消し……。北京の狙いは、そうやって「日本」というダック丸ごと一羽を一気に料理することだ。複数の細かな戦術を通して相手に細切れの交渉余地を与えず、最初から全体像を突きつけて主導権を握り、最終的に支配しようとする戦略だ。

習近平の戦術・戦略を分解してみよう。

情報戦では「真実」が解体される。中国国営メディアが、沖縄に対する日本の主権を疑問視し、高市首相を危険な軍国主義者として描写する。琉球王国が中国に朝貢していたという事実を歪曲し、現代の沖縄が日本に「占領された領土」であるかのような印象を与える。この情報戦の狡猾さは、真実と虚偽を巧妙に織り交ぜる点にある。

経済的強制では「市場」が武器になる。レアアースの輸出制限、中国人観光客の訪日制限、日系企業への規制的嫌がらせ。この戦術の目的は、日本企業を「北京の代弁者」に変えることだ。日本企業は高市政権に中国に屈するように圧力をかけ、日本の社会に亀裂を生み出す。被害を受ける産業は政府を批判し、被害を受けない産業は傍観する。

日本の文化産業に自主検閲をさせる狙い

軍事的威嚇が続くと、戦争でも平和でもない「曖昧な緊張状態」(グレーゾーン)が日常化する。その結果、日本は対応に追われ続け、国際法や安全保障の隙間を突かれる危険が増す。

例えば、尖閣諸島周辺では、中国海警局の船舶が日本の領海に毎日侵入する。2024年度、航空自衛隊は669回のスクランブルを実施し、約60%が中国機に対するものだった。これは中国の軍事的存在を「新しい正常」として常態化させることが目的だ。

文化戦争では「ソフトパワー」が支配される。

2025年6月、J-POPグループの上海公演が突然中止され、日本のアニメ映画3本が中国市場から締め出された。日本の文化産業は今後、自主検閲を始め、北京の好みに合わせた作品を制作するようになるかもしれない。そう差し向けるのが北京の作戦なのだ。

政治家、学者や有名人を「中国の代理人」として起用し、その人の権威や信頼を利用してエリート層を取り込み、一般社会に影響を及ぼす。例えば、鳩山由紀夫元首相は、北京の立場を擁護し、日本の政権を批判する。中国国営メディアは彼の発言を大々的に報道し、「日本国内にも理性的な声がある」という印象を作り出す。現職のビジネスリーダーやジャーナリストにも、似たような圧力がかかる。

2009年12月14日、習近平中国国家副主席と会見を行う鳩山総理
2009年12月14日、習近平中国国家副主席と会見を行う鳩山総理(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

法律戦では「歴史」が書き換えられる。

2025年7月、北京で「琉球の歴史と現状に関する国際学術会議」が開催された。「琉球の法的地位は未解決である」と主張する論文が発表された。今日の学術論文が、明日の外交白書となり、明後日の領土主張となる。

これが北京ダック戦略である。日本という「ダック」を丸ごと消費するのだ。