いつの時代でも企業にとって、「ヒット商品」は有り難いものだ。業績の改善につながるのは確実で、企業自身のコーポレート・ブランドの価値が向上するからだ。とりわけ「100年に一度」といわれる歴史的大不況期には有り難さの度合いが違う。厳しい昨今では、このような稀有な商品は企業の「救世主」にさえなるからだ。
本書は、この救世主をつくり上げるための方法を11のケースに基づいて明らかにしている。ただし、いささか斜に構えた切り口で、ではあるが。というのはヒット商品の源泉が「パッと見の魅力、デザインの力だ」と断じているからだ。
なるほど「イケメン」「キモメン」という言葉が流行るように現代はビジュアル重視の時代であり、商品においてもデザインに象徴される「見せ方」は間違いなく重要だ。まずそれが注目を引くものでなければ、商品購買にトライアルすらしてもらえないのである。
本書にはこの「見せ方」革命で成功を勝ち取った興味深い事例が満載である。とりわけ、冒頭の「ソフトバンクモバイル」のケースは非常に示唆的だ。後発の同社が先発の二大キャリアに追いつくためには「まるで宇宙からやってきたような」まったく異質のイメージ戦略が必要だったという。そのために実行に移された「奇策」は、全国のショップをすべて真っ白に塗るというものだった。これによってライバルとの区別性を強烈にアピールすることができたのだ。そしてさらなる強烈なインパクトを生み出すためにとったビジュアル戦略があの有名外国人タレントのCMへの起用だった。キャメロン・ディアスとブラッド・ピットという米国を代表する超巨星を使うことにより、日本の視聴者に驚きと感動を与え、この2人のカリスマのイメージが商品や企業に投影されることによって思惑通りの「格好いい」ブランディングがごく短期間で可能になったのである。
また商品のパッと見のわかりやすさを変更することでヒットに導いた理研ビタミンのケースは単純な着想ながら実用性が高そうだ。「ノンオイルスーパードレッシング青じそ」でヒットをとった同社はその後、高グレードの新商品を投入したものの、生産打ち切り寸前の失敗を喫してしまう。理由は商品の個性を伝える方法がわからなかったからだ。そこで考案されたのが「素材の記号化」だった。これは白地のパッケージにゴマやトウモロコシをそのままビジュアル化し、中心素材をわかりやすく表現したもので、商品の魅力をシンプルに打ち出すものだった。これにより、伝えるべき商品の価値がパッケージを通して消費者へ的確に届けられ、めでたく成功となったのである。
本書は企業が直面している多様な問題別に、その厳しい状況下でどのようにして解法を得、ヒット商品をつくり上げていったのかを明らかにしている。その意味でサバイバルのためのハウ・ツー本と捉えることができる。また綴られた中身は主に現場担当者の肉声から構成されており、真に迫っている。実践面での参考度はかなり高いといえる。さらにカラー画像もふんだんに織り込まれていて、ヒット商品の具体的なイメージをあますところなく伝えてくれている。
本書は、商品開発の担当者だけでなく、業績不振を打開したいと考えるすべての人々に導きの糸となる一書といえよう。