※本稿は、矢野耕平『わが子に「ヤバい」と言わせない 親の語彙力』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
「畳語(じょうご)」の意味が変化している
【問】日本語には、畳語と呼ばれる同一の単語を重ねて一語とした言葉がある。次の各文の空らんにあてはまる畳語を〔 〕内の意味を参考にして考え、■部分に入るひらがなを後の1~5から選び番号で答えなさい。ただし、□・■・○はそれぞれひらがな一文字分を示し、同じ記号には共通したひらがなが入る。なお、濁点がつく場合にも同じひらがなと考える。必ず例を参考にすること。
例 □■□■な種類のスポーツをたしなむ。〔いろいろ〕
→空らんには「さまざま」が入るので、答えるべきひらがなは「ま」となる。
ア 新製品であるにもかかわらず、□○■□○■傷がある。〔いくつかの箇所〕
1ひ 2さ 3ろ 4つ 5か
イ □■□■心配していたことが起きてしまった。〔前もって〕
1す 2ね 3つ 4る 5こ
ウ 散歩□■□■買い物に行く。〔ついでに〕
1に 2き 3り 4た 5お
2019年度・慶應義塾中等部(一部抜粋)回答は文末に記載
わたしたちは日常生活の中で、「わかわかしい」「たかだか」「いろいろ」などの副詞、「きらきら」「さらさら」などのオノマトペ、「ひとびと」「われわれ」「かみがみ」などの名詞など、語や語の一部を繰り返す表現を用いています。
これらの表現を「畳語」(reduplicated word)といいます。
アは〔いくつかの箇所〕なので全体が傷ついているわけではなく、部分部分にそれが認められるのですね。正解は「ところどころ」になります。
イはなかなか難しいかもしれません。〔前もって〕を示す畳語、漢字では「予予」とも書き表すものをご存じでしょうか。正解は「かねがね」です。
ウはある動作のついでに別行動を取ることを意味する「かたがた」です。
どうでしたか。言われてみれば……と思っても、ひらめくまで苦心しそうです。ついでにもうひとつ問題に取り組んでみましょう。先の問題を大人用に少々難し目にアレンジしてみました。
【問】日本語には「畳語」と呼ばれる同じ音や単語を繰り返して使うことばがある(たとえば、「淡々(たんたん)」「散々(さんざん)」など)。次の各文の空欄に当てはまる畳語を〔 〕内の意味を参考にして答えなさい。ただし、□△○はそれぞれひらがな一文字分を示し、同じ記号には共通したひらがなが入る。なお、濁点がつく場合にも同じひらがなと考えること。
1 あの先生のアドバイスはとても大事だから□△□△忘れてはいけないよ。〔決して〕
2 転校で友人と別れるのはつらいが、一方で新天地での生活に心躍るので悲喜□△□△だ。〔かわるがわる〕
まず、1。正解は「ゆめゆめ」ですが、これは「夢々」と書くのではなく、「努々」と書きます。禁止を表すことばを修飾する場合は「決して」「断じて」の意味が、打ち消しのことばを修飾する場合は「少しも」「まったく」の意味となります。
次に2の正解は「こもごも」。大人にとってこれはさほど難しくなかったのではないでしょうか? 「こもごも」は「交々」と書きます。「悲喜交々」とは「悲しいこと、嬉しいことを(個人が)かわるがわる味わう」という意味です。ですから、たとえば「合格発表の掲示板の前では悲喜交々の光景が見られた」などといった「悲しむ人と喜ぶ人が入り乱れる」の意は誤用なのですね。あくまでも個人の心情変化を指しているのです。