本来、不動産業界の言葉であるはずの「優良物件」が、主に女性が男性に対して理想の条件を満たした結婚相手を指すメタファーとなったのはなぜか。中学受験塾代表の矢野耕平さんがそうした表現が始まった時期や経緯を調査した――。
※本稿は、矢野耕平『わが子に「ヤバい」と言わせない 親の語彙力』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
メタファーは社会情勢を映し出す
皆さんは「メタファー」という表現をご存じでしょうか。比喩表現の一種である「隠喩」(「ようだ」「みたいだ」といった比喩指標を用いない比喩表現)のことを指しています。今回のコラムではこの「メタファー」をテーマに語っていきたいと思います。
数年前のこと。妻の一言にカチンときたことがあります。
おめでたいことに親類の女性が結婚することになったのですが、そのお相手の男性の職業(国家公務員)を知るや否や、「あの子は『優良物件』をつかまえたね!」と嬉々として言い放ったのです。
この表現に引っ掛かりを覚えたわたしは、「『優良物件』なんてモノみたいな言い方は相手に失礼では?」と注意。妻からは「は⁉ 失礼じゃないよ。よく使う言い回しだよ」と言い返されました。彼女に反省の色はまったくなし……。
普段は妻に対してあまりモノを言うタイプの人間ではありませんが、なぜかこの表現にわたしは言い知れぬ嫌悪感を抱いたのです。ひょっとすると、妻のことばの裏側に「あなたは『事故物件』だけどね」というニュアンスを読み取ってしまったのかもしれません……。
話を戻しましょう。
「優良物件」とは本来は不動産用語として使われていた表現です。「立地や建物の条件が良く、その資産価値が長く持続できる(売却時に高値で売れる)物件」を指します。
さて、その「優良物件」がいつのころからか「(主に女性が男性に対して)理想の条件を満たした結婚相手」を指すメタファーとして使われるようになったのです。中には「恋人」や「女性」に適用されることもありますが、その大半は上述した意味で使用されていますので、ここでは「優良物件」=「男性」で統一しましょう。