対話的なコミュニケーションの増やし方

キャリア・コンサルタントを配置できない場合でも、対話的なコミュニケーションの機会は、工夫次第ではいくらでも作れます。

例えば、ピア・カウンセリングのようなキャリア・トークイベントです。全体のファシリテーターを一人置き、各メンバーが4名程度のテーブルに分かれ、キャリアシートなどを手元に用意しながら、いくつかのテーマで問いかけを行い、自由に話していくイベントを行うのです。筆者も参加したことがありますが、同じ社内の他職種の人たちと、キャリアや目標について話し、客観的な声をもらうのは、貴重な経験でしたし、その人とのつながりは今でも仕事に活きています。

他にも、対外的な1on1やキャリア・カウンセリングを行う対話の外部サービスも続々とでてきていますし、元管理職を企業横断的なメンターとして社内に配置する企業もでてきています。上司には逆に話しにくいことも、他組織の人であればかえって自己開示できることもよくあります。

すでに上司と部下の1on1を実施している企業は、その場をより有効に活用するために、月に1回を「キャリア1on1」といった特別テーマでの1on1にすることもできるでしょうし、上司へのコミュニケーション研修・トレーニングも行われるべきことでしょう。

「お金がない」「時間がない」場合でも、このような工夫を凝らせばいくらでも対話の機会は増やせます。「自分の仕事はこう人から思われているのか」、「こういう発想は自組織では出てこなかった」といった外部からの刺激を受けながら、自分の思いや経歴について語ることによって、先ほどの「共創的」な効果は得られます。現状は、こうした対話の機会を増やさないまま、「公募制」や「社内FA」や「留職制度」といったマッチングの制度だけが広がっています。

迷った時は勇気をもって誰かに自己開示してみよう

こうした対話が持つ効果は、働く一人一人の個人にも参考になるものです。

「何も好きなことがない」「仕事でやりたいことなんてない」……今、このようなキャリアの悩みはどの世代にも多く聞かれます。「自律的なキャリア」ブームは、その悩みをさらに深くしています。

しかし、焦る必要はありません。筆者の経験では、そうした人のほうが「普通」です。

小林祐児『リスキリングは経営課題』(光文社新書)
小林祐児『リスキリングは経営課題』(光文社新書)

個人にできることは、他者に「腹を割って話すこと」です。同調や正解をくれる「いつもの相手」ではなく、耳の痛いことや自分と違う視点をくれそうな相手に相談してみることです。先ほどのような対話を繰り返せば、多くの人は新しい言葉を自らのキャリアに与えることができていると思います。そこで見つかる言葉こそが「創発」的な効果なのです。

また、人からキャリアの相談を受けるときにも、ここで紹介した知見は役に立つものです。キャリア相談をされる側になるとき、多くの人は具体的な「アドバイス」を与えようとしてしまいます。しかし、それでは先ほど見たような「対話」の創発的な効果を十分に期待できません。必要なのは相手が自己開示できるような「傾聴」と、あなた自身の視点からの相手への真摯しんしな「問いかけ」です。

当然ですが、キャリアへの意思は人と話せば100%見つかるというようなものではありませんし、他者との対話には、いつもの安全地帯から、「勇気が必要な場」へと少し踏み出すことが必要になってきます。しかし、「何を学べばいいんだ」「何もやりたいことなどない」と迷った時こそ、目の前の相手に腹を割り、そこから生まれてくる言葉と意思の「創発」に賭けてみること。人をリスキリングへと突き動かす「種火」は、この勇気こそが与えてくれるように思います。

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