「対話型ジョブ・マッチングシステム」と「公募制」の違い

対話型ジョブ・マッチングシステムとは、世代を問わず、キャリアについての他者との「対話」の機会をベースにおき、社内公募や副業、社内留職のような形で事業部が人材を募集し、それに個人が手を挙げて流動していく仕組みです。

この社内のジョブ・マッチングシステムを構成する各部分は、個別制度としてはいま多くの企業がすでに行っています。伝統的な企業も、「標準登用年齢」のような年功的な昇格の運用を廃止し続けていますし、自ら手を挙げてポストに応募する社内公募制は、中小企業にまで広がってきました。

問題は、それらの施策がほとんど機能していないこと、そしてそれに対して対策を講じられていないことです。

例えば、社内公募制は多くの企業で整備されましたが、ふたを開けてみれば応募が極めて少ないことが圧倒的に多くあります。同じように、選択型の研修には「いつものメンツ」しか集まらず、越境学習のプログラムに手を挙げるのは20代の元気な従業員だけ……。キャリア施策の現場はそのような「笛吹けど踊らず」のオンパレードです。

そうした施策が犯している誤りは、日本のビジネスパーソンに、「キャリアへの自発的意思」があることを前提としてしまっている点です。しかし、仕事についての何かしらの意思(やりたいこと、達成したいこと、具体的な目標)を持っているビジネスパーソンは、感覚的には10人に1人程度しかいません。

つまり、多くの企業のキャリア施策は、従業員の主体性への「過剰期待」状態にあります。「これからの時代のキャリアはこうあるべきだ」という「べき論」をもとに、欧米企業のような施策を持ってきても、残念ながら日本人相手には上滑りします。

また、本社が考える「きれいゴト」のようなキャリア施策に、事業部はついていきません。従業員が異動を断ったり優秀人材がでていったりしてしまうことは、事業の運営にとっては非合理的です。きれいなキャリア制度だけ作っても、現場はついてこない。そうした限界が明るみになってきているのが昨今の「キャリア自律」ブームの裏側です。

対話の経験が豊富な人はキャリアへの主体性が高い

では、そうしたキャリアへの能動性や主体性をいかに日本人に創り出せるのでしょうか。これこそがリスキリングの肝です。そこで参考になるのが、〈変化適応力〉について筆者が行った分析の結果です。

ここで言う〈変化適応力〉とは、変化が起きても活躍できるだろう、適応していけるだろうという自己効力感です。背後には、挑戦し続ける気持ちや目標をセットしていく力などがあることが分かっています。この〈変化適応力〉が高い従業員の特徴の一つに、キャリアについての「対話の経験」が豊かであることがあったのです。自分の仕事やキャリアについて誰かに自己開示し、相談するという経験を持つ人ほど〈変化適応力〉が高くなっていました。この〈変化適応力〉だけでなく、主体的にキャリアを築いていこうとするキャリア自律の度合いも、キャリア・カウンセリングを受けた経験と正の相関があることがわかっています。

話をするビジネスパーソン
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