※本稿は、榎本博明『思考停止という病理』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。
不満があっても抗議行動は起こさない日本人
他の国々では、政府が決めた政策が理不尽だと考えたり、何らかの不満を感じたりすると、すぐに抗議デモがそこら中で起こり、それが手荒な暴動に発展することも珍しくない。海外のそうした暴動による混乱の様子が、テレビやネットのニュースでしょっちゅう報道される。
それに対して日本では、政府が決めた政策にどんなに不満を抱いても、政府の中枢を担う政治家の不正が発覚して不信感を抱いても、抗議デモが起こることは珍しく、ましてや暴動に発展することなど滅多にない。
居酒屋などでは、政府に対する不満を息まいて口にする人も見かけるが、ほとんどの人は抗議行動を起こそうなどという気持ちはない。結局、何があっても我慢してしまう。そのため政治家のなかには、
「日本国民はすぐに忘れるから、適当に時間稼ぎをしていればいい」
といった趣旨の発言をする人物まであらわれる始末である。
忍耐強さや協調性の高さは長所だが…
自分たちの生活環境に問題が生じた場合、自分たちの力で何とか改善しようと努めるのが民主主義国家における国民のあるべき姿のはずだが、どういうわけか、多くの日本人はそうした動きを取らずに現状に甘んじてしまう。内輪で文句を口にすることはあっても、現状を変えていくための行動を取るより、現状を容認してしまう。これも一種の思考停止と言えるのではないか。
現状容認は、ある意味では諦めに通じるわけで、そこは変えていく必要があるのだが、それが難しいのは、そうした日本人の短所は、忍耐強さや礼儀正しさ、攻撃性の低さや協調性の高さといった長所と表裏一体になっているためとも言える。
その一例として、日本人観光客が海外で非常に評判がいいということがある。世界最大のオンライン旅行会社エクスペディアは、ヨーロッパ、アメリカ(北米・南米)、アジアパシフィックのホテルマネージャーに対して、各国観光客の国別評価調査を2009年に実施している。
その結果、日本は9項目のうち「行儀のよさ」「礼儀正しさ」「清潔さ」「もの静か」「苦情が少ない」の5項目で1位となり、総合評価でも堂々1位、つまり世界最良のツーリストに選ばれているのだ。