「日本人ほど礼儀正しい国民はいない」

じつは、このように礼儀正しく、攻撃的にならず、可能な限りものごとを平和に解決しようという姿勢は、はるか昔から日本人のなかに根づいていたようである。

たとえば、長崎出島の三学者の一人に数えられるツュンベリーは、旅行記のなかで日本の印象について詳細に記している。

それによれば、日本人ほど礼儀正しい国民はいないという。幼い頃から従順さをしつけられ、年配者もその手本を示す。身分の高い者や目上の者に対して礼を尽くすのはもちろんのこと、身分が対等の者に対しても、出会ったときや別れるとき、訪問したときや立ち去るときに、ていねいなお辞儀で挨拶を交わす。そのように記されている。

また、日本で商取引をしているヨーロッパ人の汚いやり方やその欺瞞に対して、ヨーロッパ人だったら思いつく限りの侮り、憎悪そして警戒心を抱くのが当然と思われるような場面でも、日本人は非常に寛容で善良であることにしばしば驚かされた、という。

安土桃山時代からヨーロッパ人が称賛

時代をさらに遡ってみても、たとえば、安土桃山時代に相当する1579年から徳川幕府が誕生する1603年にかけて、三度来日した宣教師ヴァリニャーノも、日本人はだれもがきわめて礼儀正しく、一般の庶民や労働者でさえも驚嘆すべき礼節をもって上品に育てられ、あたかも宮廷の使用人のようであり、礼儀正しさに関しては東洋の他の民族のみならずヨーロッパ人よりも優れているという。

また、日本人は思慮深く、ヨーロッパ人と違って、悲嘆や不平、あるいは窮状を語る際にも感情に走らない、それは相手を不愉快にさせてはならないという思いがあるからだという。

さらに、日本人は不平不満を口にすることをよしとせず、自分たちの主君や領主に対して不満を抱くことなく、天候のことや楽しい話をするばかりであるため、日本人の間では平穏が保たれているとしている。