為政者にとっては非常に御しやすい国民

このような伝統的にみられる日本人の性質は、阪神・淡路大震災の際も、東日本大震災の際にも、世界中から賞賛された日本人被災者たちの忍耐強さや規律正しさに通じるものであり、素晴らしい長所でもあるのだが、先述のように、こうした礼儀正しさや忍耐強さ、攻撃性の低さや協調性の高さは、悪くすると現状追認の事なかれ主義につながる。

政治に無関心で、どんなに政治家の不手際があっても苦笑しながら批評するくらいで、抗議行動を起こそうなどとは思わず、そんなことをするのは見苦しいといった感覚があり、身近な話題にしか興味を示さない多くの人々をみていると、為政者にとって非常に御しやすい国民に思えてしまう。

日本では、多くの国民が今の生活に対して不満をもっていても、政治や行政を変えようといった発想は乏しく、政治家や行政担当者が何とかしてくれるのを待つといった感じになりがちである。若い世代の教育を担う教員までが、

「そういう難しいことは、しもじもの者にはよくわからないし、国の偉い人たちがちゃんと考えてくれてるんだろうから、任せるしかないでしょう」

などと口にするのを耳にして、衝撃を受けたこともある。だが、それが日本の国民の一般的な反応なのではないか。

「お上に任せておけば悪いようにしないだろう」

なぜ、そうしたお任せの姿勢を取ってしまうのか。そこにも日本の伝統的な価値観が関係しているようだ。

日本人の行動パターンを探った文化人類学者ベネディクトは、日本人は目上の者から命じられて仕方なく受け入れ従うのではなく、目下の者の方から自然に従うのであり、それは西洋人にとってもっとも驚くべきことであるとしている。

人事管理とリーダーシップの概念。 木製の机の上にジグソーパズルを組み立てます。
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そのことは、新型コロナウイルスの感染爆発による行動規制に際しても、海外では違反したら罰金を科すといった強制力が必要不可欠であったのに、日本ではそうした強制力なしに国民の自粛に任せればよかったことにもあらわれている。

それは、国民が昔から「お上に任せておけば大丈夫。悪いようにはしないだろう」といった感覚をもっていたからであろう。