経験豊富で有能な人ほど「実験」に反対する

テストの実施に対する抵抗はいらだたしいものだが、覚えておいてほしいのは、それが知性やビジネス感覚からくるものではないということだ。従来のビジネス教育は、イノベーションのマインドセットとまったく相容れない。実際、経験豊富で有能な同僚やマネジャーほど、実験に対して慎重になる傾向がある。

スタンフォード大学の同僚であるマイケル・レザービーとリータ・カティラが100以上のスタートアップを対象に行った研究によって、とりわけMBA取得者が、効率的なスタートアップ論が求める実験に抵抗を示すことがわかっている。気楽に計画を策定し遂行できるようになるには、現実世界でのテストを使って仮説を検証する方向に、態度を大幅に切り替える必要がある。

トム・ウージェックは、オートキャドをはじめとするプロのクリエーター用ソフトを製造するオートデスクのフェローだ。ウージェックは長年にわたり、あらゆる年齢、あらゆる職業の人々を対象に、全国でデザイン・ワークショップを実施してきた。

彼のワークショップでは、参加者にマシュマロ・チャレンジという課題が与えられた。これは、スパゲッティの乾麺20本、テープ、ひも、1つのマシュマロを使って、18分間でできるだけ高い塔を建てるというものだ。ただし、マシュマロは塔の「てっぺん」になければならない。

マシュマロ
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幼稚園児がMBA取得者に圧勝したワケ

ウージェックによると、この課題では、マシュマロそのものが重要な鍵となる。マシュマロは、スパゲッティに比べて思ったよりも重く、頑丈な土台を必要とするからだ。仕事柄ほかの参加者よりも有利な技術者を除くと、ウージェックのワークショップで最も効果的に塔を建てたのは幼稚園児たちだった。

最もできが悪かったのは? 最近MBAを取得した参加者たちだ。その差も、小さいとはいえなかった。幼稚園児たちは平均50センチ以上の塔を建てるのに成功した。ビジネススクールの卒業生たちが建てた塔の平均は25センチだった。

なぜこれほどの差がついたのだろうか? 幼稚園児たちは、自分たちがわかっていないということを知っている。そこで、いろいろと試してみるのだ。たとえば、乾燥パスタの引張強度について何の先入観ももっていないので、早い段階でマシュマロを塔のてっぺんに置いてみる。塔が倒れても、もっといいやり方を試す時間が十分にある。

それに引きかえMBA取得者たちは、正式に認可されたスパゲッティ技術者のごとくテーブルについて、間違った思い込みにもとづき、複雑な塔を慎重に建てるのだ。