85%が「ビアガーデンに行ってみたい」と答えた
この会社は、ビアガーデンのアイデアについてどう考えるか、顧客の意見を聞くことから始めた。本部長が率いるチームが、クリップボードをフードコートにもちこんだ。そして、食事客に次々と同じ質問をしてまわった。「もし4階にビアガーデンができたら、行ってみたいと思いますか?」。
すると約1000人の顧客のうち、85パーセントが「イエス」と答えた。会議室にいた経営幹部とまさしく同じように、フードコートにいた食事客たちは、街を一望できるビアガーデンがいかにすばらしいかを、難なく想像することができたのだ。
明らかに過半数の顧客がその計画を支持したので、会社は数十万ドルを投資してビアガーデンをつくった。この新しいビアガーデンは、プレミアム・ドラフト・ビールと、数々のグルメ料理と、高級感の漂う座席を売りにしていた。
下の階に掲げた看板と、ソーシャルメディアで展開したキャンペーンで、新しくできたビアガーデンを楽しむよう買い物客に誘いかけた。あとは、客が当然のごとく殺到するのを待つだけでよかった。4階は救われたも同然だ。
「するといっていること」と「実際にすること」は違う
1カ月後、進捗報告書に目を通した本部長は、客がまだ殺到していないことを知った。実際にビアガーデンにやってきた客は、一晩にわずか10人ほどだった。そんなばかな! 800人以上の買い物客が来ると約束したではないか! まさか、全員がうそをついていたというのだろうか?
いずれにしても、これは多くの企業で起こりうる話だ。幸いなことに、この本部長とその同僚たちは、この問題に取り組む前に私たち(編集注:スタンフォードで人気講義をもつ著者ら)に接触してきた。彼らは、私たちが提唱する実験技術を活用して、フードコートの顧客が4階のビアガーデンに積極的な関心を示したときには、完全に準備を整えていた。この会社は、人が「するといっていること」と「実際にすること」の違いをすでに理解していたのだ。
有用性を証明するのは行動であって、調査ではない。ほかの人にとって価値があるものを自分がもっているかどうかを知るには、それを相手の前にぶらさげて、相手が食べる(あるいは飲む)かどうかを見なければならない。
問題は「私たちには、これをやる能力があるだろうか?」ではなく、「もし私たちがそれをしたら、喜ぶ人がいるだろうか?」だ。「それをつくることが可能か?」ではなく「つくるべきなのか?」なのだ。チャールズ・イームズがかつていったように、「デザインに関する第1の問題は、どう見えるべきかではなく、そもそも存在すべきかどうかなのだ」。