周囲の抵抗に打ち勝つためのツール「遡及」

あなたが会社のなかで初めて実験を提案するときは、このソフトウェア技術者のように、多くの反対に遭うだろう。思わぬ方向から反対されることもある。反対を見込んでそれに対処するためには、私たちが「遡及そきゅう」と呼んでいるツールを試してみるといい。

未来にいる自分を想定し、あなたの売り込みがすでに却下されてしまったものとして振り返ってみるのだ。その視点から、最も被害妄想的になって、想像しうる反対意見をすべてリストアップする。

簡単に聞こえるが、「遡及」をしてみると、あなたの主張の欠点がすぐに明らかになる。頭のなかでみずからを未来の失敗のあとに置いてみると、それまで意識していなかった欠点や潜在的な間違いが、手に取るようにわかってくるのだ。

認知バイアスにより、1つのアイデアに夢中になることで、ほかの人にははっきり見えている欠点がますますわかりづらくなる。主要なステークホルダーに実験を提案するときに、不意に反発を食らってしまうのはそのためだ。そんな目には誰だって遭いたくないはずだ。遡及してコマ戻しをすれば、あなたの計画に潜む問題が改めて見えるようになるだろう。

この音響技術者が「遡及」の手法を使えば、実験に対する社内の反対に打ち勝てたはずだ。もし彼が、たとえ10分間でも、首脳陣がベータ版で進めることを断固として拒絶するシナリオを想像してノートに書き出していれば、商標に関する懸念がまず間違いなくリストに挙がっていたはずだ。

まずは手頃な「実験」から始めたほうがいい

潜在的な反対意見のリストができあがったら、その1つ1つにどう対応するか戦略を練る。ほとんどの場合、実験に対する抵抗は、誤って認識されたリスクにほかならない。もし首脳陣が実験を、失敗する可能性がある、時間と資金の多大な投資と見なせば、それを推進しようとは思わないだろう。結局のところ、テストに成功しても、最終製品が顧客に売れたわけではない。さらに多くのテストを実施するきっかけにすぎないのだ。

こうしたマインドセットを避けるには、リスクが検知されもしないような、安価で迅速な実験を考案すればいい。不完全であっても、近い将来にできる実験を選ぶのだ。首脳陣の同意なしにできるものならさらに望ましい。会社で行う最初のいくつかの実験は、重要な構想に関連しないものを選ぶべきだ。主に自分自身の仕事に関連していて、主要なプロフィットセンターや時間的な制約のあるプロセスにはかかわらないような、手頃な実験から始めるほうがいい。

たとえその実験が非常に重要ではなくても最後までやり遂げて、その過程を記録に残す。そしてその成果を見せるのだ。いくつかの興味深い結果のほうが、どんな議論よりも、実験の実施に対する抵抗を克服するのに効果がある。たとえささいなテストでも、有用性を明らかにしてリスクを減らすことがわかれば、首脳陣がさらに大がかりな実験を承認する可能性が高まる。