箸の正しい扱い方は何か。フードプロデューサーの小倉朋子さんは「日本におけるお箸の根底には神道の思想が流れている。和食で、お料理と自分の間にお箸を横向きに置くのは神様が宿る食べもの=神様の世界と、自分たちの世界との間に一線を引く『結界』の意味がある」という――。

※本稿は、小倉朋子『世界のビジネスエリートが身につけている教養としてのテーブルマナー』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

並べられたお箸
写真=iStock.com/coolvectormaker
※写真はイメージです

日本の箸は、単なる食事の道具ではない

食事で使われる道具を人口ベースで見ると、ある調べでは、世界の28パーセントが「箸食」、28パーセントがナイフやフォーク、スプーンを使う「カトラリー食」、44パーセントが「手食」と、大きく3つに分けられます。

世界の約3割の人が使っているお箸ですが、そもそもどこで誕生し、いかなる経緯で日本人が箸食をするようになったのか、実は確たることはわかっていません。

一説によると、お箸が誕生したのは紀元前16世紀の中国。日本にもたらされたのは、遣隋使として中国に渡った小野妹子が持ち帰り、聖徳太子に献上したことが始まりとされています。

こうしてお箸が日本に広まったとされる説とは別に、お箸は弥生時代に、食事の道具としてではなく、まず神事で用いられるようになったともされています。

遣隋使以前の地層からお箸らしきものが出土しており、これが日本のお箸の原型なのではないか、という説もあります。

同じ箸食でも、中国のお箸は象牙製や陶器製、韓国のお箸は金属製ですが、日本のお箸は本来は木製です。調べると木は土に還るために多く出土していないだけで、日本は日本で古来、独自に木製のお箸を使ってきたのではないか、とも考えられるのです。

また、家族内でお箸を共有せずに「自分のお箸」があるのも日本だけです。そこからも、日本の箸食文化の発祥や歴史的経緯は、その他の箸食文化とは少々違うようにも受け取れます。

おそらく、総合的に考えてもっとも有力なのは「小野妹子が中国から日本に持ち帰った」説だろうとは思います。ただ、ごく当たり前のように見えて、実は断言できないというのは歴史のおもしろみであり、考えがいのあるところではないでしょうか。