50代前後となると、さらなる出世の見込みが絶たれる人が多くなる。経済コラムニストの大江英樹さんは「40代のうちは、まだ、ひょっとしたら役員になれるかもしれないという希望を持っていたとしても、50歳を過ぎれば事実上、ほぼその可能性はなくなります。つまりその会社の中での出世はもう終わったということになるのです。これはとても素晴らしいことです」という――。

※本稿は、大江英樹『90歳までに使い切る お金の賢い減らし方』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

オフィスで疲れている女性
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何をやればいいのかわからない

企業で50代社員向けセミナーをすると、必ず出てくるのが「好きなことをやれといわれても何をやっていいのかわからない」という言葉です。この声は、ほぼ例外なくどの企業でも出てきますので、サラリーマンにとってはごく自然な感想なのだろうと思います。

でも私に言わせると、これは典型的な「サラリーマン脳」の発想です。この言葉はあまり聞き慣れないかもしれませんが、最近はいろいろなところで使われるようになってきました。

「サラリーマン脳」とはいったい何か? それを一言で表すと、「すべての活動が受動的である」ということです。

上からの指示がないと、自分からは能動的には行動できなくなってしまう。何かをすることによるリスクを過剰に恐れ、ひたすら責任を逃れることばかり考えるようになる、という感覚です。

これは何もよいところがないようですが、サラリーマンとして生きていく上では必要とされる能力だったのです。自分でなりたくてサラリーマン脳になってしまったのではなく、サラリーマンとして優秀であるがゆえに、サラリーマン脳の持ち主になってしまったのです。

なぜ「サラリーマン脳」になってしまうのか

人間、誰でも、学校を出て社会人になる時は、不安がある一方で希望もあるはずです。自分はこんな仕事がしたいとか、将来はこうなりたいという目標だってあるのは当然です。

ところが、いったん組織の中に入ってしまうと、すべてにおいて自分の意思だけでものごとを決めることはできなくなってしまいます。

もちろん、社長の鶴のひと声で何事も決まるような会社であればこれは当然ですが、必ずしもそんな独裁的な会社ではなく、普通の会社であっても、組織で決まれば、それは個人の意思よりも優先されるのは仕方のないことです。

結局、組織の中でものごとを進めようとすると、根回しとか、社内力学とか、そういうバランス感覚を重視せざるを得なくなります。それに、自分のやりたいことを、ある程度根回しをしながら進めていったとしても、どこでどんでん返しを食らってボツになるかもわかりません。私も40年近くサラリーマンをやってきましたから、そんな経験は嫌というほど味わっています。