人生を豊かにするには、どうすればいいのか。経済コラムニストの大江英樹さんは「ビジネスと同じように人生でもコストパフォーマンスを求める人がいるが、それでは人生を楽しむのは難しい。衝動買いがストレス解消になるように、たまには無駄にお金を使ったほうがいい」という――。

※本稿は、大江英樹『90歳までに使い切る お金の賢い減らし方』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

VALUEとPRICE
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「用だけを済ませて生きると真実を見落とす」

1913年生まれ、2021年に107歳で天寿をまっとうされた美術家の篠田しのだ桃紅とうこうさん。その篠田さんが今から8年前に書かれた『一〇三歳になってわかったこと』(幻冬舎)という本があります。ずっと現役の美術家として活躍してこられた篠田さんだからこそ書ける、柔軟な人生の智恵が一杯詰まった本でした。

そしてその本の中に、私がとても気になった次のような一節がありました。

「人は用だけを済ませて生きていると、真実を見落としてしまいます。真実は皮膜の間にある、という近松門左衛門の言葉のように、求めているところにはありません。しかし、どこかにあります。雑談や衝動買いなど、無駄なことを無駄だと思わないほうがいいと思っています」

ビジネスにおいては効率は重要

今は「効率」を何よりも優先する時代といってよいでしょう。DX(デジタル・トランスフォーメーション)もAI(人工知能)も、なぜこれだけ話題になり、もてはやされているのかといえば、それは効率重視の考え方が根底にあるからです。

もちろん、ビジネスにおいては効率を考えることはとても大事です。単位時間あたりの生産量はできるだけ多い方が生産性は高くなります。このため、極力無駄を省いて効率よく業務を進めることが善とされることになり、デジタル化という流れになるのはやむを得ません。

ビジネスにおいて効率性は重要ですが、人生すべてにおいてそれが重要かどうかというと、必ずしもそういうわけではありません。いやそれどころか、ビジネスにおいても、どんな種類のビジネスモデルかによっては、効率性をそれほど重視しないものもあります。