老後への不安を抱える人に、ブッダならどんな言葉をかけるだろうか。福厳寺住職でYouTuberの大愚元勝さんは「お釈迦様は、豊かに生きるには心と財産の両方を育てる必要があると説いた。まずは『今だけ、お金だけ、自分だけ』の生き方を見直すことが重要だ」という――。

※本稿は、大愚元勝『思いを手放すことば』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

1万円札と人間のミニチュア
写真=iStock.com/samxmeg
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大人になっても豊かになれない理由

定年退職後、仕事も安心できるほどの貯蓄もありません。
気がつくとお金の心配ばかりしてしまいます。

お釈迦様の言葉に、次のようなものがあります。「若いときに心を育てることなく、または財産をつくることもしなかったならば、魚のいない沼にいる老いたさぎのように悩む」。

ある程度の年齢になったときに豊かになれていないのは、「心を育てること」「財産をつくること」のいずれか、または両方をしてこなかったせいだ、ということです。なかなか厳しいですね。

心と財産は、一見別々のもののように思えます。世の中には、心がやさしいのに貧しい人もいれば、人格的には疑問を感じるけれど超がつくほどお金持ち、という人もいますから。でも、お金がなければ不都合なことがあるし、心が未熟だと不安や不満がつきないものです。本当に豊かに生きるためには、心と財産の両方を育てる必要があります。

1万円札の原価は、わずか22円

今ほしいものや将来の暮らしのために、私たちは「お金がほしい」と思います。でも、そもそもお金ってなんでしょう?

お寺で飼っているヤギに1万円札を差し出したら、うれしそうに飛びついてくるでしょうか? そんなことはありませんよね。そのへんで摘んできたスギナをあげたほうが、ずっと喜ぶはずです。

1万円札の原価は、約22円といわれています。「もの」としてのお札は、数字が印刷された22円の紙切れにすぎません。ヤギは、そのことをちゃんと見抜いているんですね。だから、「たいしておいしくなさそうな紙切れ」より、新鮮なスギナに魅力を感じるんです。

でも人間の社会では、その紙切れを1枚出せば、映画を5回見たり、缶コーヒーを80本以上買ったりすることができます。

なぜそんな不思議なことが起こるんでしょう? それは、人がみな「この紙には1万円分の価値がある」と信じているからです。