「大阪都構想」を国民が真贋鑑定できる日
橋下徹大阪市長と対談したとき(>>記事はこちら)、橋下市長は「自分は大阪市役所の所長にすぎない。大阪の統治機構を変えるのが自分の仕事」と言っていた。今、橋下市長に求められる最大のミッションは、大阪を政治的にも経済的にも時間をかけて“ピカピカに”磨き上げることだ。
しかし、橋下市長を見ていると政治的な権力闘争の動きが強すぎるように思える。たとえば関西電力(関電)に対してのケンカだ。民主党も自民党も「脱原発」を掲げる器量と勇気がないのをいいことに、橋下市長は、国民受けするアジェンダを打ち出して一人で突っ走っている。
現在、大阪市は関電の株を9%持っているが、2000億円近くあった同社の株の価値が、この1年の一連の騒動で、1000億円に下がってしまったのだ。そのうえ、今後、大阪市の株主提案によって、関電が脱原発を余儀なくされればどうなるか。
再生可能エネルギーに依存すれば電気代は確実にアップし、原発を操業しなければ、すぐにでも今夏ブラックアウト(停電)の危険性もある。そして最悪のシナリオとして、関電が東京電力と同じように実質倒産することにでもなれば、同社の株の価値はゼロになる。橋下市長は、大阪府と大阪市を統合した場合のコストセービングは、560億円といっているが、関電株の下落で1000億円を失うほうが市民にとっては損害は大きい。
今のところ、大阪市の脱原発に関する株主提案が通ることはないと見ているが、世論は脱原発に振れているし、橋下人気は依然として高い。さらには中央政界への進出にも肯定的だ。本来、株主は株主価値が最大限になるための提案をするものだ。株主価値をなくす提案をしてどうするのか、と苦言を呈したい。橋下市長が本物の政治家かどうか、「大阪都構想」が国政に参入するための単なる前奏曲にすぎなかったのか、国民が真贋鑑定できる日はそう遠くないのかもしれない。
私の知る限り地方自治体を、政策面からピカピカに磨き上げた政治家というのは、誰一人としていない。いわゆる“有名知事”は何人も出てきたが、地元自治体の“GDP”を上げた(経済的に強固な基盤を作った)知事はいない。そもそも地方自治体の首長というのは、「自分たちの権限が足りない」と中央に対して文句を言う傾向にある。この文句の言い方がうまい人が、有名知事と言われているだけなのだ。