約2兆5000億円の貿易赤字が意味するもの

2012年1月に財務省が発表した貿易統計(速報値)によると、2011年度の貿易収支(輸出額と輸入額の差額)は約2兆5000億円の赤字を記録した。この貿易赤字は、第二次石油ショックに見舞われた影響で生じた1980年以来の31年ぶりの数字だという。

東日本大震災の影響で自動車輸出などの落ち込みに加え、円高や世界経済の低迷によって日本からの輸出が減少し、さらに原子力発電所の停止で火力発電用の液化天然ガス(LNG)の輸入などが急増したことが、その理由として挙げられている。

しかし、日本における製造業の生産体制が復旧し、欧州などでくすぶりをみせる世界経済が回復すれば、日本は再び貿易黒字を果たせるようになるのだろうか。いや、そうはならないだろうというのが私の見方だ。むしろ今後、一層、日本の貿易赤字が続いていく可能性が高い。なぜならこれまで黒字を稼ぎ出してきた日本の貿易構造そのものが、今までと違い、大きく様変わりしているからである。

リーマンショックと資源高の要因で日本の貿易収支が悪化して、28年ぶりに単月赤字を出した08年当時から、日本の貿易構造は変化して、これからは構造赤字になるという警告を私は発してきた。「赤字転落!貿易立国・日本の非常事態(>>記事はこちら)」で同問題を取り上げている。その中で、かつてのアメリカ経済のように、日本でも企業の海外現地化が進み、海外でつくられた製品が日本に入ってきて貿易黒字を減らす逆転現象である「日本企業のアメリカ化」が起きていると指摘したのだ。

今回の貿易赤字転落により、日本の貿易構造がどう変わったのか、一度説明しておこう。

日本が対米貿易黒字だけで月額5000億円も稼いでいたこれまでの約20年間、フレッド・バーグステン(元財務次官補、米国際経済研究所所長)やレスター・サロー(経済学者、MIT名誉教授)などといった米国財界の大物は、「為替レートを変えれば日米の貿易不均衡は是正できる」と盛んに主張していたのだ。

しかし為替を操作して貿易バランスを均衡させるという主張は、「心理経済学者」である私に言わせれば、四則計算の“算数”の世界の話にすぎない。実際、1ドル360円が200円になっても、100円を切って80円を割り込んでも、日本は貿易黒字を稼ぎまくってきた事実があるからだ。