そして為替が、円高に振れれば振れるほど、日本の企業は、以下の3つのことを行って円高を乗り切ってきた。

1つ目は、製品に新たな付加価値を生む「製品イノベーション」である。この“イノベーション”により、製品をさらに高機能化、高付加価値化を実現させることで、ドルベースで値段が高くても売れるようにしてきた。

そして、その典型的な輸出品が自動車である。かつて日本の輸出車の一台あたりの平均価格は、1万3000ドル程度だったが、イノベーションの連続で、いつの間にか高級車のセグメントが“主戦場”に変わり、平均価格が2万5000ドルになった。80~90年代の日本の商品には、価格に転嫁できるだけの技術力、競争力があったのだ。

2つ目は製造業における生産性の向上である。たとえば10人で作業していた工程を3人に減らして、機械に置き換える機械化。あるいは労働力を一人から数人の作業員が部品の取り付けから組み立て、加工、検査までの全工程を担当し、“多能工化”することで、生産性を高めてきた。

そして3つ目が、生産地を分散化させ、多国籍化することだ。製造生産拠点を、円ベース以外の地域に持っていくのだが、一番いいのはアメリカ本土に生産拠点をつくることだ。そうすれば同じ国で部品を調達して、同じ国で売れ、為替の影響を受けることがなくなる。

そして通貨が、円とドルの中間の動きをする東南アジアにも日本企業は、生産拠点を築いた。それはたとえアメリカが、数量制限や超過課税で日本からの輸入量を絞ったとしても、第三国をバッファーとして活用すれば、影響を少なくすることができるからだ。

10円円高が進行すると、日本の大企業では200億円の損失が生じるなどと、日経新聞、経団連などは大騒ぎするのだが、円高が収益を直撃するのは半導体のようなコモディティ(農産物や石油など、価格差がつきにくく、為替変動が価格を大きく左右する商品)を生産しているエルピーダメモリのような業種で、日本の輸出の主力産業にとっては影響なかった。