ちょうどこの原稿を書いている最中にエルピーダメモリが会社再生法を申請したというニュースが飛び込んできた。日本の半導体が世界を席巻していた1980年代、その勢いにおそれをなしたアメリカ勢が国に泣きつき、日米半導体摩擦なる通商問題にまで発展したのが遠い昔のようだ。
日本の半導体産業が絶頂期だったあの頃
この本が出版されたのは1992年。ということは、著者は日本の半導体産業の絶頂期のなかで本書を書いている。本のタイトルにある「四〇年」とは、この絶頂期からそれ以前の40年間を振り返って、という意味である。この連載の第1回で、時間軸を移動して疑似体験できる、それが読書のいいところ、という話をした。この本はその典型である。いまの日本人と日本企業にとって、実に重たいメッセージが詰まりまくっている。
著者の菊池誠は、長年に渡ってソニーの中央研究所長を務めていた人なので、当然のことながらソニーの話が中心になっている。なぜソニーが世界的な会社になれたのか。ひとつの重要なきっかけとなったのが、トランジスタ・ラジオである。トランジスタは1947年、アメリカで誕生した技術である。ウィリアム・ショックレー、ジョン・バーディーン、ウォルター・ブラッテンの3人のアメリカ人物理学者が、トランジスタの発明によって、のちにノーベル物理学賞を受賞した。
しかしながら、この技術が花開いたのは日本の小さな一企業、ソニーの開発したトランジスタ・ラジオの爆発的な普及によってであった。敗戦国の無名の会社がなぜ、世界中の人々の暮らしを一新するような商品を作ることができたのか。その答えを技術開発の歴史を追いつつ、日本社会のもつ「持ち味」や「知的活力(mental temperature)」を論じているのが本書である。