空前絶後のスケール
戦前の陸軍参謀、石原莞爾は「帝国陸軍の異端児」と呼ばれた有名な人物である。その独特の軍事思想を著した『最終戦争論』も、タイトルだけであれば聞いたことのある人も多いだろう。しかし、実際に読んだという人はそれほど多くないのではないか。僕もその一人だった。石原莞爾の評伝は読んでいたし、さまざま歴史書で頻繁に名前が出てくる。しかし、『最終戦争論』は不覚にもわりと最近まで読まずにいた。
読んでみると、講話をベースにした想像よりもはるかにコンパクトな本で、大変に読みやすい。しかしその内容はというと、これが戦略構想として空前絶後のスケールである。今の感覚で読むと荒唐無稽にしか思えない。しかし、本書の面白さはそうした「過剰さ」にこそある。
著者の石原莞爾は1889年山形県生まれ。陸軍大学を卒業して関東軍参謀となる。満州国の戦略構想をめぐって当時の上官である東条英機関東軍参謀長と対立、1938年には参謀副長を罷免されて、舞鶴要塞司令官に補された。絵にかいたような左遷である。太平洋戦争開戦の直前の1941年3月にはついに予備役に編入され、その後は評論の執筆や講演活動にいそしんだ。『最終戦争論』は石原が現役時代から考えに考え抜いてきた日本の戦略大構想をまとめたものだが、その内容は左遷された後、1940年の講演に基づいている(出版は予備役に編入された後の1942年)。この時期には『戦争史大観』というもうひとつの書も出版されている。内容は『最終戦争論』とほとんど重なるが、こちらには彼がこの最終戦争構想を描くにいたったいきさつが詳しく書かれているので、その内容にも触れながら、石原の大戦略構想を俯瞰してみたい。