経営センスとは「月光仮面」のようなもの

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科教授 楠木 建
1964年東京生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。日本語の著書に、『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『知識とイノベーション』(共著、東洋経済新報社)、監訳書に『イノベーション5つの原則』(カーティス・R・カールソン他著、ダイヤモンド社) などがある。
©Takaharu Shibuya

経営者と経営学者の対談の書である。ここでは経営者である三枝さんの話の内容をメインに取り上げたい。三枝さんの現職はミスミグループの代表取締会長。ミスミグループの経営に関わる前は、「ターンアラウンド・スペシャリスト」として複数の企業再生を手がけている。三枝さんは僕にとって優れた経営者のモデルであり、最も尊敬する経営者の一人である。

企業再生の現場で奮闘すること16年。その間に書かれたのが「三枝三部作」とでも言うべき、『戦略プロフェッショナル』『経営パワーの危機』『V字回復の経営』の三冊である。経営と経営者、組織の本質を突きまくった名著としていまでも多くの人に読み継がれていることは周知のとおり。内容の濃さ、豊かさはもちろん、すべて小説仕立てになっていて読みやすい。今からでもまったく遅くはないので、ぜひ読んでほしい。経営を見る眼が変わること請け合いである。

三枝三部作は強烈なメッセージを放っているが、小説仕立てであるため、登場人物に語らせるという「間接話法」をとっている。本書『日本の経営を創る』は三枝さん自身が主語なので、三部作の背後に一貫して流れている三枝さんの経営哲学と思考様式が「直接話法」でビンビン伝わってくる。そこが本書のたまらない魅力である。

優れた経営人材とはどのような人を指すのか。本書で縦横無尽に繰り広げられる対談から、その輪郭をしっかりとつかむことができる。「経営というのは結局のところセンスの問題でありスキルではどうにもならない」。この連載で繰り返し話してきたとおり、これが以前からの僕の持論であった。本書を読んで、この持論は確信となった。