文庫にもなっているベストセラーである。ファーストリテイリングの会長兼CEOの柳井正さんが書いた2003年までのユニクロ。内容は今読んでもばっちり面白いが、すでに一昔前の話なので、それほど刺激的に感じられない人もいるかもしれない。そうした向きにぜひおすすめしたいのは、巻末付録にあるファーストリテイリングの「経営理念23ヵ条」とその解説である。

第1条 顧客の要望に応え、顧客を創造する経営
第2条 良いアイデアを実行し、世の中を動かし、社会を変革し、社会に貢献する経営
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第3条 現実を直視し、時代に適応し、自ら能動的に変化する経営
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第9条 スピード、やる気、革新、実行力の経営

ずーっとこんな感じで、至極まっとうなことが書いてある。あっさり言えば、当たり前の話である。字面を追っていても面白いものではない。正直なところ、僕は最初これを読んだとき「オーナー経営者の説教?」とわりと醒めた感想を持った。

読みが甘かった。2年ほど前からファーストリテイリングのお手伝いをするようになり、柳井さんと議論を重ねるうち、この23ヵ条のもつ重みを肌で理解するに至ったという次第である。

この23ヵ条は、柳井さんのこれまでの成功体験、そしてそれ以上に膨大な量の失敗体験を煮詰めて発酵させて蒸留させた「商売」のエッセンスである。柳井さんを交えて議論をしていると、彼のあらゆる思考、判断、行動がこの23ヵ条に表された原理原則から出てきているということがいやというほどよくわかる。議論の対象となっているのは、会社のなかで起きているごく具体的な商売上の問題や案件である。話が具体的な案件になると、具体のレベルで思考がひたすら横滑りする人が多いものだが、柳井さんにはそうしたことがない。どんなに具体的な問題であっても、柳井さんは必ず原理原則の抽象レベルにまで問題を引き上げ、ことの本質を突き詰める。その上でもう一度具体的な問題に降りてきて、意見や判断を述べる。急降下爆撃である。