この連載では、因果論理の引き出しを増やし、戦略のセンスを磨くのに役立つと考えている本を紹介し、そこから僕が受けた驚きや興奮、気づきを読者の方々になるべくそのまま伝え、共有してもらうというスタイルで進めていきたい。ただし、この連載を読んでも、「すぐに役立つビジネス・スキル」が身につかないということだけはいまから約束しておきたい。

1発目で自分の本を取り上げたと思ったら、2発目は絶版書である。どうしても避けて通れない一冊なのでお許しいただきたい。いま改めて読んでみても戦略ストーリーをつくるためのセンスがあきれるほどたっぷり詰っている本である。

著者の井原高忠(僕にとって大リスペクトの方なので本来は井原高忠先生と呼ぶべきところだが、以下は敬称を略させてください)は日本テレビのプロデューサーとして、主として音楽番組やバラエティ番組でテレビの黎明期から業界を牽引した人物である。

初版の発行は1983年。僕がこの本に出会ったのはその数年後、大学生のときだった。当時の僕は卒業後の仕事としてやりたいことは何もなく、将来ついての構想も抱負も皆無。ひたすら引きこもって布団の中でずるずると読書をしていた(やっていることはあまり今と変わっていないが)。

いつの時代も大人たちは若者に「好きなことをやれ!」などと言う。考えてみれば、これほど不親切なアドバイスもない。好きな仕事がわかれば苦労はない。当時の僕の好きなことといえば、寝転がって本を読んだり、歌ったり踊ったりすることぐらい。どう考えても職業と折り合いをつけるのが難しそうに思えた。「個性を発揮して、キミの好きなことをやりなさい…」などと大人に言われようものなら、「じゃあ、おっさんは自分でホントに好きなことを仕事にしているのかよ……」などと悪態をついてひねくれているという、もうどうしようもない学生である。そんなときこの本を読んで、「本当にスキなことをスキなようにやって、バンバン仕事をしている人がいる!」と、よどみなく衝撃を受けた次第である。