著者は音楽が好きで、カントリーバンドで進駐軍の基地で演奏するなどして、学生時代からプロ並の収入を得ていた。音楽が好きなところまでは同じなのだが、僕と違ったのは「いい年大人になってもテンガロンハットをかぶって歌っているのはさすがにまずいだろう」といたって冷静に考えていたこと。井原は当初は漠然とジャーナリストを目指していたという。そこに突然「テレビ」というものが登場した。そこですぐにジャーナリストはやめにして、日本テレビの音楽班にもぐりこむ。その理由は「新聞社よりも歌舞音曲が多そうだから」。この気楽さがもう最高である。そうか、職業の選択なんてそんなもんでいいのかとこの本を読んで当時の僕は大いに勇気を得て、再び布団にもぐりこんだものである。
この本のおかげかどうかはわからないけれども、紆余曲折を経て僕もいまではある程度スキなことをしながら世の中と折り合いをつけられるようになった。現在は競争戦略についての考えごとを生業としているのだが、いま改めてこの本を読むと、井原の戦略家としてのセンスに驚かされる。戦略をつくって、周囲をまきこんで、全体丸ごとを動かして成果を出す。そのことにかけて、この人は天才だったといってよい。
本書では戦略家としての著者のセンスが疾走している。絶版になっているということもあり、その中身をできるだけ具体的にお話ししてみたい。