なぜ外国人観光客は日本に殺到しているのか。東京大学名誉教授の養老孟司さんと思想家の内田樹さんは「どう見ても走りにくい首都高など、景色の違い以上に、欧米では失われた『景色の非均質性』を見てほっとしている」と指摘する。2人の対談を、書籍『日本人が立ち返る場所』(KADOKAWA)よりお届けする――。

昔では考えられない白馬・ニセコの風景

【養老】日本人って意外と日本のことをわかっていないんですよ。外国人のほうが日本の良さを知っている場合がよくある。例えばインバウンドでも北海道のニセコとか、長野の白馬みたいな場所とか。

【内田】白馬のゲレンデはもう外国人のほうが多いです。オーストラリアの人がホテルやペンションやレストランやスキースクールまで所有している。

【養老】路線価が出ていますけど、不動産が一番高くなってるでしょ。

【内田】増えてきたのは十数年前からでしょうか。僕は前は毎年白馬村にスキーに行っていたんですが、やはり年々外国人が増えてきた。「エヴァーグリーン」というスキースクールがありましたが、これは英語ベースの学校なんです。インストラクターも生徒もみんな英語話者。

何年か前に、宿について荷物を開けたら、スキー用の靴下を入れ忘れていて、近くに新しいスポーツ用品店ができたので、買いにゆきました。ドアを開けたら、3人の店員が全員外国人でした。そこで「靴下ありますか」と英語で言いながら、時代は変わったと思いました。

オーストラリア人が白馬ではいくつもホテルやレストランを所有しているので、いずれその人たちにも帰化して村会議員になってもらって、自治体の運営に関わってもらうことになるだろうと、僕のスキーの先生が言ってました。

白馬村のケーブルカー
写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
※写真はイメージです

日本人こそ日本のことが全くわかっていない

【養老】そうなる以前の白馬を考えると、あんな田舎に誰が? という感じを日本人はもっていたと思います。

日本人ってものすごい頭がカタいんですよ。現実を見ない人たちが多い。今インバウンドの市場が膨らんでいますけど、日本はもっとインバウンドを受け入れたほうがいいと、最初に指摘したのは、僕が知る限り、イギリス人のデービッド・アトキンソンです。彼はオックスフォード大学で「日本学」を専攻して、ゴールドマン・サックスに入るんだけど、来日して、2015年に『新・観光立国論』(東洋経済新報社)という本を書いた。

彼はアナリストだから、日本のことをよく分析していて、日本のGDPの中で、観光の占める率が低すぎることに気づくんですね。当時わずか数%しかない。タイとかいろいろな国の例を挙げて、日本ならばGDPの1割は超えるはずだということを言っていたんです。たぶん、それを一番よく利用したのが元総理の菅(義偉)さんだと思います。安倍(晋三)内閣のもとで観光立国のとりまとめをやったのは菅さんですから。

日本人は日本のことならわかっていると思っているけど、全くわかってないですよ。