日本は先進7カ国で唯一10代の死因1位が「自殺」の国だ。しかし、100年前の子供は「世界一幸せ」とまで言われていた。何がここまで変えてしまったのか。東京大学名誉教授の養老孟司さんと思想家の内田樹さんの対談を、書籍『日本人が立ち返る場所』(KADOKAWA)よりお届けする――。(第2回/全5回)
激怒する日本シニア
写真=iStock.com/sakai000
※写真はイメージです

じいさんはなぜいつも不機嫌そうなのか

【養老】居心地といえば、講演に来ているじいさんの機嫌の悪さがいつも気になっていて。あれ、居心地が悪いんですよね。

【内田】そうですね。あまり「機嫌のいいじいさん」って見たことないですね。日本のじいさんが機嫌悪いのは、あれはある種の成功体験の帰結なんじゃないかと思うことがあります。

子どもの頃からずっと「嫌なこと」を我慢してきた。「楽しいこと」をしてもほめられないけれど、「苦しいこと・嫌なこと」を我慢するとほめられた。「意味があると思えること」をやるよりも「意味がないと思えること」をやるほうがほめられた。それがずっと子どもの頃から刷り込まれた。

受験勉強とか学校のさまざまな校則とか、「意味がわからない」と思っても、「これに何の意味があるんですか」と異議申し立てするよりも、「無意味でも構わない」と忍耐強く従ったほうが結果的には「よいこと」が起きた。そういうルールを長い時間をかけて内面化してしまった。

子どもの頃からそうやって「無意味耐性」を身につけた男たちは、そのうち「無意味なことに耐えて、不機嫌でいること」がデフォルトになってくる。「居心地が悪い」というくらいのことは気にならなくなる。そして、「不機嫌な顔をしている」ということは「無意味耐性を発揮している」ということだから、ほめられこそすれ、人にとやかく言われる筋合いはないと思うようになる。

中高年男性がかかっている「呪い」

合気道を教えていて感じたことですけれど、中高年男性は総じて身体が硬いのですが、それ以外にも共通点がある。それは「気持ちのいい動き」をすることに身体が自然には向かないんです。どちらかというと「気持ちが悪い動き」をしようとする。

力を使わずに、流れるように動くより、立ち止まって、力んで、身体の構造が崩れるような動きを選択する。身体的な不快に耐えると「ほめられる」という一種の成功体験が内面化してしまっているからじゃないかなと思うんです。

不機嫌な顔をするというのはたぶん「今、俺すごく機嫌が悪いんだけども、この機嫌の悪さは不快に耐えていることを告知しているんだから、相応の報酬を頂きたい」というアピールなんです。この呪いを解くのはかなり大変です。