キャッシュレス時代に「がま口」が売れている
これは、中国の大量生産に挑む日本の小さなメーカーの話である。
キャッシュレス決済の普及で、財布が売れない時代だと言われる。分厚い長財布は敬遠され、スマートフォン一つで外出する人も増えた。
ところが今、「日本製のがま口財布」が再び脚光を浴びている。その生産を支えるのが、大阪市東住吉区に拠点を置く革小物メーカー「コルバ」だ。
コルバは自社ブランドを前面に出さず、黒子として製品を供給するOEM(相手先ブランド製造)専門の企業である。がま口財布を中心に、年間総生産数10万7888個、月間約9000の製品を国内で生産している。その中でも、東京の大手卸問屋「エトワール海渡」を通じて国内外の小売店に流通するコルバのがま口財布は、年間約5000点。その55%を韓国や台湾からの注文が占めるという。
なぜ今、がま口財布なのか。その用途は小銭入れにとどまらない。大きく口が開き、ワンタッチで閉まる利便性が、鍵やリップクリーム、常備薬、アクセサリー、そしてガジェット類(イヤホンなど)を収納するのに最適だと再評価されているのだ。
「絶滅」するはずだった産業での快進撃
本来であれば、がま口財布のような労働集約的な製品は、「世界の工場」である中国の台頭によって絶滅してもおかしくなかった。実際、この30年間で日本の産地は空洞化し、多くのメーカーが廃業するか、生産拠点を海外へ移した。
しかし、コルバの奮闘によって、その危機は免れた。同社はこの30年間、一度も赤字を出していない。グローバル経済の荒波を乗り越え、生産量は少しずつだが右肩上がりに推移。多くの企業が苦しんだコロナ禍においても受注を増やし、コロナ禍前の2019年比で売り上げは10.6%増、新規取引先を43%も増やしてみせた。
まさに「メイドインジャパン」復権の立役者である。なぜ、大阪の小さな町工場だけが、巨大な中国の生産力に飲み込まれず、生き残ることができたのか。そこには、現社長の桝本武典さん(62)と妻の恵子さん(61)(チーフデザイナー)、そして創業者の父・禎昭さん(88)が下した、ある決断があった。


