NHKの連続テレビ小説「ばけばけ」の舞台、島根県松江市が揺れている。街の象徴である松江城の近くに、19階建てマンションの建設が進んでいるからだ。歴史評論家の香原斗志さんは「名誉市民である小泉八雲の精神を市長以下、だれも理解していなかったことが背景にある」という――。
ラフカディオ・ハーンの写真(F.グーテクンスト・スタジオ撮影、1889年)(写真=シンシナティ・ハミルトン郡公共図書館所蔵/Frederick Gutekunst/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)
松江の美しさを世界に発信した小泉八雲
島根県の古都松江を訪れる観光客が急増している。いうまでもなく、松江ゆかりの小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)夫妻をモデルにしたNHK連続テレビ小説「ばけばけ」の効果が大きいと思われ、とりわけ松江城周辺のエリアがいつになく賑わっている。
番組がはじまった昨年10月には、小泉八雲記念館は前年同月比2.02倍の2万1634人、小泉八雲旧居は同3.57倍の1万9152人と客数が急増。番組に登場する名所旧跡も、たとえば大亀の石像で知られる月照寺は、同2.81倍の2187人が訪れた。
松江城の内堀端の、かつての家老屋敷跡に建つ松江歴史館も、3月29日まで「連続テレビ小説『ばけばけ』の世界と小泉セツと八雲の時代」という企画展を開催中で、セツと八雲が愛した古き良き松江のPRに余念がない。
もちろん、小泉八雲は古くから松江市にとって誇るべき人物とされてきて、昭和33年5月3日には名誉市民に憲章されている。
八雲が松江で暮らした期間は1年3カ月にすぎなかったとはいえ、著作をとおして、明治の日本人が気づいていなかった松江の美しさや精神文化の価値を、世界に向けて発信した。なかでも代表作『知られぬ日本の面影』では、松江を「神々の国の首都」と呼び、八百万の神を敬う精神性のほか、城下町松江の素朴な美しさを高く評価し、松江の人たちに郷土に対する自信をもたせた。だから、いまなお八雲は「市民の誇り」とされている。
