無菌状態と考えられていた子宮にも「菌」が存在していた
これまで体外受精の成否を左右するのは、受精卵(胚)の質と考えられてきましたが、子宮内の菌環境(子宮内フローラ)も影響することがわかってきました。
2015年に発表された米ラトガース大学の研究によると、これまで無菌と考えられていた子宮内にラクトバチルスという乳酸桿菌が存在することが明らかに。さらに、2016年の米スタンフォード大学の研究では、子宮内フローラ(子宮内の菌の環境)の乱れによって、体外受精の成功率が下がることが発見されました。
われわれの患者さんでも体外受精で良好な受精卵(胚)を子宮に戻しても、なかなか妊娠に至らないケースがありました。子宮内膜に慢性子宮内膜炎があると、妊娠率が低下することがわかってきたのです。
慢性子宮内膜炎とは子宮内膜に軽度の炎症が持続的に起こる病態です(※)。原因ははっきり解明されていませんが、何らかの原因で子宮内の菌のバランスが乱れ、病原性の細菌が増殖することで起きると考えられています。子宮内膜を受精卵が着床できる状態に成熟することを阻害したり、病原性の細菌を倒すために免疫が活性化し、受精卵も「敵」とみなして攻撃してしまうことが、妊娠を妨げている可能性が指摘されています。
(※)子宮以外(卵巣や腹膜など)の場所に子宮内膜組織が増殖・剝離する「子宮内膜症」とは異なる
慢性子宮内膜炎は自覚症状がなく、内膜の組織を採取して炎症の有無を調べる検査をして初めて発覚するケースも多いのです。胚移植を2〜3回行っても妊娠に至らない人や以前の妊娠で前期破水して分娩までに時間が経過した人、産褥熱が出た人などは、次の妊活前に慢性子宮内膜炎の検査をすすめています。また、妊娠・出産を機に子宮内の菌環境がガラリと変わることも多いので、2人目不妊が気になる人も一度検査しておくと安心です。