オホーツク海の潮は、北方領土の国後島にぶつかることもある

知床は日本が誇る世界遺産であり、外国人もたくさん訪れる観光地です。私もウトロから知床岬を回って羅臼まで、天気のいい日に船で行ったことがあります。カムイワッカの滝や知床連山の景色は実に見事だし、野生のヒグマが歩く姿を眺められたりします。そして岬の先端を羅臼町側へ回れば、北方領土の国後島が目の前です。

遺体で発見された方のうち3人は4月28日に、その羅臼側で見つかっています。オホーツク海の潮は知床岬の先の国後島にぶつかって、羅臼へ回ることもあるのです。

5月6日と18日に国後島の西岸で見つかった女性と男性の遺体にも、乗船者の可能性があります。男性の遺体の近くでは日本の小型船舶の免許証とクレジットカードが見つかっていて、甲板員の曽山聖さんの名前と一致するそうです。DNA鑑定に必要な手続きを速やかに行って身元確認できるよう、私は外務省に要請しました。

この2人の遺体を見つけてくれた国後島在住のドミトリー・ソコフさんは、ビザなし交流事業で道内を訪れたこともある方です。感謝状なり謝意を表するべきだということも、外務省に進言しました。

結果論ですが、少しでも早くロシア側に協力要請をしておけば、捜索の結果は違っていたかもしれません。私は羅臼で遺体が発見された4月28日に、北方領土の水域へ流れてしまった方もいるに違いないと考え、ロシアのガルージン駐日大使に電話をかけて協力をお願いしました。ガルージン大使は非常に好意的で、「人道的な配慮をします。国の本省にも伝えます」と答えてくれました。

海上保安庁が、小樽の第一管区海上保安本部を通してウラジオストクの国境警備局に協力を要請したのは、事故の2日後です。外務省は5月2日になって海保からの要請を受け、ようやく捜索協力の依頼を行いました。

ロシアに頼み事をしづらくても、人の命ほど尊いものはない

外務省は、ウクライナ情勢を巡って対立するロシアに頼み事をしづらいと考え、海保に一元的に任せていた。これも大きな間違いです。岸田総理がプーチン大統領に電話するなり、林外相がラブロフ外相に電話するなりして、人道的な観点からすぐに支援を頼むべきでした。人の命ほど尊いものはないからです。

私がガルージン大使に電話した時点でも、日本の外務省から連絡は来ていませんという話でした。しかしロシア側は、4月28日には亡くなった乗客のリュックサックを見つけたとか、救命胴衣を着用した漂流者を見つけたが、荒天で救助ができず、見失ってしまったとかいう連絡を、進んでしてくれるわけです。

人道的な対応をとってくれたことは、素直に感謝したいと思います。そして私が常々主張している、対話の大切さ、首の皮一枚であってもパイプを持っておくことの必要性が、裏付けられたと考えています。

(構成=石井謙一郎)
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