知床は海底の地形が複雑で、海流が渦巻く場所もあり、天気も急変する

直接的な事故原因の解明はこれからですが、運航会社「知床遊覧船」と桂田精一社長の責任は次第に明らかになっています。

そもそも「KAZU I」は、瀬戸内海で運航させるために造られた船でした。穏やかな瀬戸内と外海は、同じ海でもまったく別物。船の仕様も、厚み、重心、耐久性など、設計から別にしなければいけません。まして知床は、海底の地形が複雑で、海流によっては渦巻く場所もあり、風や波のエネルギーはすさまじく、天気も急変します。「KAZU I」は、地域特性に合わせた船ではなかったのです。

【知床観光船事故】潮の流れは北方領土・国後島の西岸にも向かう
報道を基に編集部作成

行方不明になっている豊田徳幸船長は経験が浅く、どの辺りが浅く、岩がどこにあるかといった基礎知識もない。不安を口にすることもあったというこの人に船長を任せた責任は、会社側にあります。

事故当日は午後から海が荒れる予報が出ていて、漁船も出ていません。同業者が「今日はやめておけ」と忠告したのに、聞き入れられませんでした。「荒れたら戻ればいい」と判断して出航したそうですが、知床の海にそんな甘い考えは通用しません。

知床の山や岬で電波が届かないことは、地元の人なら誰でも知ってる

陸との連絡方法もずさんでした。船舶安全法は、岸に近い限定した海域を運航する船に関する規則は緩やかで、通信手段は業務用無線、衛星電話、携帯電話のうちひとつあればいいとしています。携帯で構わないといっても、知床の山の中や岬の先では電波が届かないことを、地元の人なら誰でも知っています。ドコモが一番ましだと言われますが、豊田船長の携帯はauだったそうです。

事務所の無線のアンテナが折れていたのが話題になりましたが、実は問題ではありません。あれは仲間内で使うアマチュア無線のアンテナで、業務に使ってはいけないものです。

「KAZU I」には、緊急時に連絡を取る方法がありませんでした。海上保安庁への「エンジンが止まって自力航行できない」という118番(海上保安庁緊急通報用電話番号)は、船長の携帯からではなく、お客さんの携帯を借りての発信だったのです。

運行管理者は桂田社長ですが、必要とされる「船長として3年以上の経験」などの要件を満たしていないと報じられています。配置すべき運航管理補助者もいませんでした。桂田社長も豊田船長も素人だったため、天候が荒れると予想されたにもかかわらず、出航を強行したのでしょう。さまざまな負の連鎖が、悲劇に至ったのだと思います。