択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島からなる北方領土。2020年以降のコロナ禍でビザなし交流が中止され、ロシアのウクライナ侵攻で日本政府は2022年4月、交流事業の当面の見送りを発表した。そうした中、ロシアは着々と観光開発を進めている。その進捗状況を現地に3度足を運んだジャーナリストの鵜飼秀徳さんがリポートする――。
水彩画タッチの北海道の地図
写真=iStock.com/MichikoDesign
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近いのに「果てしなく遠い北方領土」の今

最近、「北方領土」が話題に上がることが多くなっている。

ひとつは、ロシアのウクライナ侵攻によって、北方領土交渉やビザなし交流事業が断絶状態に陥っていること。もうひとつは、国後島では4月下旬に北海道・知床沖で遭難した観光船の乗員・乗客とみられる遺体が流れ着き、ロシア側との引き渡しが当局間で調整中とのニュースだ。

近くて、果てしなく遠い北方領土。かの地はいま、どのような状態なのか。筆者は3度、ビザなし交流事業に参加している。現状を、写真を交えて報告したい。

北方領土は択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島の、主に4つの島々からなる。最も近い距離にあるのは歯舞群島のひとつ貝殻島だ。根室半島の納沙布岬から、わずかに3700メートルの距離である。

国後島は知床半島と根室半島との間の根室海峡に食い込むように位置している。天気の良い日には、両半島から、国後島の山々を見渡すことができる。手を伸ばせば届きそうな距離にある島々だが、その間には見えない高い壁がそそり立っている。

私は2012年以降に3度、ビザなし交流の枠組みを使って北方領土に足を運んでいる。訪れたのは択捉島、国後島、そして色丹島である。歯舞群島は国境警備隊のみが駐留しており、元島民の墓参を除き、取材目的での入域はできない。

ビザなし交流事業とは日ソ両国政府が1991年に合意し、旅券・査証なしで相互訪問できる民間交流の枠組みである。領土問題が解決するまでの間、日本と北方領土に住むロシア人がさまざまな交流を通じて、相互理解を深め、領土問題解決の基盤をつくることを目的としている。この枠組みを使って、元島民らの故郷訪問、墓参が実施されてきた。

現地ロシア人との民間交流は、常に友好的な雰囲気のなか、実施されてきた。仮に一部の島の返還が実現した場合、今度はそこに住むロシア人が故郷を奪われることになる。憎悪の連鎖を生むことのないように、墓参事業などを通じて定期的に民間交流しているのだ。