上野にある東京国立博物館は今年、創立150周年。今春の特別展「空也上人と六波羅蜜寺」展に続き、今秋は「特別展 国宝 東京国立博物館のすべて」を開催する。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「東博が所蔵する国宝89点を含む名品を鑑賞できる機会です。出展目録を見て、所蔵が元来祀られていた寺院ではない美術館や個人蔵などならば、明治維新時の廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)で流出した可能が高い」という――。

博物館所有の仏教美術に隠されている歴史の「暗部」

コロナ感染症の流行がある程度落ち着いてきたことに伴って、イベントがにぎわいを取り戻しつつある。そうしたなかで今年、全国の博物館・美術館では魅力的な展覧会が予定されている。特に仏像展や国宝展など仏教系展覧会は、普遍的な人気を誇るが、博物館や美術館が所有する仏教美術には、歴史の「暗部」が隠されていることをご存知だろうか。

東京国立博物館(東博)では今春、特別展「空也上人と六波羅蜜寺」展が開催された(5月8日終了)。目玉の展示は重要文化財空也上人像(重要文化財)である。空也上人の口から、南無阿弥陀仏の六字名号に見立てた阿弥陀仏が出ているあの著名な仏像だ。普段は京都の六波羅蜜寺で展示されている。寺で祀られているのとは違って、美術館で展示されている仏像は、至近距離で細部をつぶさに観察できることが魅力である。

今年、東博は創立150周年を迎え、仏教美術の大型展示が続く。とりわけ今秋開催の「特別展 国宝 東京国立博物館のすべて」(10月18日~12月11日)は出色だ。本展は東博が所蔵する国宝89点を含む名品の数々を、一挙公開するめったにない機会となる。仏教にまつわる国宝も多く展示される。

この国宝展の出展リストをみると絵画や書跡、刀剣など、分野わけされている。その中に11点、「法隆寺献納宝物」という分野がある。

内訳の例は「聖徳太子絵伝」(平安時代)、「法隆寺献物帳」(奈良時代)、「細字法華経」(唐の時代)などである。

今回の展覧会に出品されない国宝以外の文化財を合計すれば、東博にある法隆寺献納宝物は300点以上に及ぶ。普段は1999(平成11)年に開館した、東博の敷地の一角にある法隆寺宝物館に収蔵、展示されている。法隆寺宝物館における収蔵物は、かの正倉院の宝物より前の時代のものが中心で、質・量ともに超一級である。

だが、本来は奈良の法隆寺にあった“私的な寺宝”がなぜ、「国立博物館蔵=国有」になっているのだろう。法隆寺には、玉虫厨子(国宝)を筆頭とする名宝の数々が展示されている大宝蔵院という収蔵館があり、そちらに保存・展示すればよいことなのではないだろうか。

これらの宝物が法隆寺の元を離れた理由には、明治維新時の法難があった。