小学校の入学者0人の秋田の町に全国から人が殺到中
「地方消滅」の筆頭格に挙げられている秋田県男鹿市に、ある寺院の地道な試みによって再生の光が灯り始めた。火付け役は男鹿半島の漁村にある曹洞宗寺院の副住職。境内にあった1株の青いあじさいの株分けを20年間延々と続けた結果、えも言われぬ景観を作り上げた。SNSなどで瞬く間に広まり、「死ぬまでには行きたい世界の絶景地」のひとつに挙げられるようになった。近年ではシーズン中で5万人以上規模の参拝客が訪れ、寺だけではなく男鹿半島全域が再生し始めた。地域創生のあるべき姿をみた。
「泣く子はいねがー」。なまはげの伝統行事で知られる男鹿半島。国内でも、特に激しい人口減少にあえぐ自治体である。市内の随所になまはげの立像を置くなどして、なんとか観光誘致に結びつけようとしているが現実は厳しい。
2014年、日本創生会議(座長・増田寛也氏)が発表した報告書「地方消滅」は衝撃だった。同レポートでは、2040年までに896市町村が消滅する可能性があるとしている。
なかでも秋田県は、極めて深刻な数字が示された。県内にある市町村の95%が「消えてなくなる」というのだ。理由は、出産適齢期(20歳〜39歳)の女性の減少である。秋田県の全域で、2010年からの30年間で50%以上の女性が減少するとの試算がなされている。
特に男鹿市は74.6%減という県内最悪の減少率だ。国立社会保障・人口問題研究所の推計では2020年の男鹿市の人口は2万6886人だが、このまま対策を講じなければ2040年には1万2784人にまで半減してしまうという。
こうした状況に危機感を抱き、生き残りをかけて行動を起こした地元の僧侶がいた。男鹿半島の北部、北浦地区にある曹洞宗雲昌寺副住職の古仲宗雲さん(52)だ。
雲昌寺がある北浦地区は、かつてはハタハタ漁で栄えた漁村だ。だが、不漁と漁業従事者の高齢化と後継者不足によって近年の漁獲高は往時の20分の1以下に。人口流出は止まらず、地域経済は疲弊し切っている。北浦地区は男鹿半島の集落の中ではもっとも人口の多い集落であったが、2022年度はついに小学校の入学者がゼロになった。
雲昌寺の檀家数も、ここ半世紀ほどは減少の一途をたどっていた。観光客を呼び寄せられるような「売り」のある寺でもなかった。
古仲さんが危機感を募らせていた2002年6月のこと。境内に植えてあった1株の青のあじさいの花がふと、目についた。
「パチンと切って、生花にして部屋に飾って眺めていると夜、ライトの光を浴びて青色が輝いてみえたのです。これを増やしていけば、お檀家さんや地域の方に喜んでもらえるのではないか」
そう考えた古仲さんの、地道な株分け・挿木作業が始まった。