境内は青のあじさいで埋め尽くされ参拝者は年々倍増

2000坪ほどある雲昌寺には庭園らしい庭園はなく、山門から本堂までは梅と杉の林が広がっていた。思い切って梅と杉の木を伐採。他の品種や別の色のあじさいを新たに植えることはせず、この青のあじさいだけに特化して延々と株分けを続けることにした。

雲昌寺のあじさい(撮影=鵜飼秀徳)
雲昌寺のあじさい(写真提供=雲昌寺/木村秀吾)

10年ほどが経過し、ねずみ算式にあじさいが増え始めると、地元紙などが取り上げ始めた。すると、少しずつ地元民が訪ねてくるようになった。

さらに、古仲さんは株分けを続けていく。そして、最初の株分けからおよそ15年が経過。境内全域は青のあじさいで埋め尽くされた。お参りの人は年々倍増し、路上駐車問題が発生し始めるほどに。

2018年、古仲さんは問題解決のため有料拝観に踏み切る。シーズン中は500円(最盛期の土日は800円)、夜間特別拝観(ライトアップ)は1000円(最盛期の週末は1300円)とした。同時に「あじさいお守り」「あじさい御朱印」などの物販のほか「フォトウェディング」も始めた。

初年は4万人の参拝客を記録。翌2019年は5万3000人となった。秋田空港との定期便で結ばれている台湾からの客も相次いだ。

集落の高台にある立地も幸いした。青のあじさい畑の向こうに日本海が見える絶景となった。とあるインフルエンサーが運営する「死ぬまでには行きたい! 世界の絶景」の2017年国内ベスト絶景にも選ばれ、SNSなどを通じて噂は瞬く間に広まっていった。

青のあじさい畑の向こうに日本海が見える絶景
撮影/山崎良一
ライトアップされた雲昌寺のあじさい
写真提供=雲昌寺/木村秀吾
ライトアップされた雲昌寺のあじさい

それまで檀家相手の仏事だけに頼っていた寺は、拝観料や物販に加え、フォトウェディングなどの収入源が生まれた。「寺院消滅」の危機に瀕していた寺は、一転して「寺院再生」のモデル寺院となった。

突如として出現した男鹿半島の新名所。地元への経済波及効果も絶大だった。たとえば、男鹿半島の突端の入道埼には、土産店や飲食店が5軒あるが、雲昌寺のあじさいシーズン中の売り上げは1店舗あたり数百万円ほど増えたという。

地元の男鹿温泉に宿泊した客には、開門前の朝の特別拝観を実施する試みも始めた。2020年夏シーズンには、大型バス200台以上の予約が入っていた。雲昌寺を軸にして、地域創生の芽が出始めた。