なんというマンネリズム…国交省担当者に問いただした

同時に、こうした異常な運航を見逃していた国の責任を問わなければいけません。

小型船舶の検査は、日本小型船舶検査機構(JCI)が、国に代わって行っています。JCIは事故の3日前、豊田船長から自分の携帯電話を通信手段に使うという申請を受け、その場で認めていたそうです。

JCIは国交省の海事局が所管する団体で、全国に31カ所の支部があり、2020年度の検査対象船は31万8736隻。そのうち旅客船は、4694隻でした。ところが検査員は、なんと約140人しかいません。じゅうぶんな検査などできないことは、船の数と検査員の人数を単純に比較するだけで明らかです。

私はここに、実態を認識しない甘えの構造を見ます。命に関わる仕事であるにもかかわらず、書類を形式的に提出し、形式的に審査して決済する、というマンネリズム。5月2日に国交省の担当責任者に連絡して、こうしたずさんさをただしました。「ご指摘ありがとうございます。もうおっしゃるとおりで、大変甘かった」という話でした。「小型船舶検査機構は、あなた方の天下り先だろ」と尋ねたら、「そうです」という返事でした。国から予算をもらっている天下り機関なので、検査員を増やすことができないという立場に甘んじている。

この事故では国交省の責任も重いというほかなく、同じような事故が再発しかねません。お客さんにすれば、自分が乗る船を運航するのがどういう内実の会社か、知りようがないのです。会社側、行政側、それぞれに問題があったのですから、小型観光船の安全対策をめぐる制度の見直しを行うとともに、検査のあり方も見直さなくてはいけません。

北海道東部の知床半島に位置する知床国立公園は、オホーツク海に突き出ています
写真=iStock.com/azuki25
※知床半島に位置するフレぺの滝。