岸田首相を知らない市民が「ハイジャックか」と大騒ぎ

5月5日のロンドンは、真昼間のちょっとしたハプニングで騒然としていた。戦闘機2機を従えた大きな旅客機が市街地中心の上空を低空飛行で横切ったのだ。「旅客機がハイジャックか?」「ついにテロが起きたか?」と市民たちは一斉に飛行の様子をSNSに書き込んだ。

英首相官邸前でジョンソン英首相と握手を交わす岸田首相
写真=AFP/時事通信フォト
英首相官邸前でジョンソン英首相と握手を交わす岸田首相=2022年5月5日

日本ではブルーインパルスによる展示飛行があると、仕事の手を休めて上空を見上げる人々でちょっとした騒ぎになる。ジェット機と戦闘機が並んで飛ぶさまはブルーインパルスほどには激しくないが、それでも市民の注目を浴びるには十分だった。いったいこれは何だったのか?

実はこのパフォーマンス、日本からやってきた岸田文雄首相を歓迎するために英空軍(ロイヤル・エアフォース、RAF)が行った儀礼飛行(フライパースト)だった。旅客機エアバスA330を改装した軍用輸送機「RAFボイジャー・ヴェスピナ」が、超音速戦闘機「タイフーン」2機を両側に従えて首相官邸やトラファルガー広場などの上空を通過した。

しかし、岸田首相の訪英を知らなかった大半の市民は、この儀礼飛行を見て大騒ぎになった。その様子はまるで、ハイジャックされた民間機が戦闘機の護衛を受けながら、ロンドン・ヒースロー空港に向かって緊急着陸する、という情景だったからだ。

そんなこともあってか、SNSを見る限りでは“人騒がせな飛行”のおかげで日本のPM(首相、プライムミニスター)がロンドンに来ていたことを初めて知った市民が多かったようだ。実際にメディアの取り上げ方も、会談の内容よりも儀礼飛行の騒ぎを伝えた記事のほうが多い、という皮肉な結果となった。

「岸田に投資を!」と訴えるも現地メディアは無反応

岸田首相はゴールデンウィークにアジアと欧州を歴訪し、最後の訪問先に英国を選んだ。5日には、ロンドンの金融街「シティー」のギルドホールと呼ばれる市庁舎で講演を行い、「私からのメッセージは1つだ。日本経済はこれからも力強く成長を続ける。安心して日本に投資をしてほしい。インベスト・イン・キシダだ」とアピールした。

その後、6カ国歴訪の成果について、「平和を守る、との目的で訪問し確かな成果を得たと手応えを感じている」と評価。「いずれの首脳とも本音で大変有意義な議論ができた」「力による一方的な現状変更はいかなる場所でも許されないという共通認識を得られた」と自画自賛している。

しかし、現地主要メディアがこの発言を取り上げることはほとんどなかった。日本のように予定調和の記事は出さないという英国メディア特有の慣習もあるが、関心事はもっと別のことにあったからだ。